1人あたりの日本酒販売(消費)量が全国1位*の新潟県。酒蔵数も全国一の89蔵で、近くにおいしい地酒がたくさんある新潟県民は日本酒好き、というのはもちろんのこと、この数字には贈答品の購入も含まれている。
新潟清酒は地酒として県民に愛されているとともに、愛しているからこそ「大切な人に飲んでほしい」「贈りたい!」という気持ちが強いことが、このデータから読み取れる。
今回は送別の季節にちなみ、どんな新潟清酒を別れのシーンで贈ったらよいか、日本酒選びのプロである酒屋さんに聞いた。
*令和3年度国税庁調べ
もともと日本酒が好きで、県外の日本酒事情にも詳しい通の方へ贈る新潟清酒はどんなタイプがよいのか。
「ふだんご自身では購入しないような、ワンランク上のお酒をおすすめします。通の人でも特別感を抱いていただけるお酒がいいですね」(酒屋やまさ:岩船郡関川村)。特別感のあるワンランク上のお酒は、酒蔵の規模の大小に関わらず商品化する酒蔵が年々増えている。予算に合わせて比べて、選んでみたい。
「香りや味わいが豊かで自然のままの味を楽しむことができる、米本来の風味と酵母の個性が残る無濾過の日本酒や、アルコール度数が高くコクと深みのある力強い味わいの原酒などがおすすめです」(酒の新茶屋:柏崎市)。日本酒だからこその特徴をストレートに表現した1本は、通の人にとってはたまらない味わいだろう。
「有名銘柄でなくとも、手に入りにくい最高に旨い酒」(雪国酒舗金澤屋酒店:南魚沼市)。地元の酒蔵と強い絆がある小売酒販店だからこそ、“手に入りにくい酒”を販売することができる。長い新潟県、それぞれの土地の酒蔵の限定酒を、酒販店のサイトや、観光などで訪れた際に酒屋に立ち寄ってチェックしてみよう。
佐渡島の金銀山が世界文化遺産に登録され、海外からも注目を集めている佐渡。5つの酒蔵がある佐渡の地酒の中でも「通の方には“きりっ”とした淡麗辛口の酒をおすすめします」(塚本商店:佐渡市)。新潟清酒の原点でもある淡麗辛口。現在は旨口の味わいも増えている中で、通の人には王道中の王道、新潟の中でも佐渡産の辛口の味わいを追求してもらっては。
「クラシカルで新潟らしい、淡麗なものをすすめています」(地酒の都屋:新潟市)というように、“The NIIGATA Classical”な淡麗の味わいもプレゼントの候補にしたい。
「見た目がお洒落でデザイン性のあるものがよいですね。味わいは冷やで飲むような華やかさのある純米大吟醸酒や大吟醸酒クラス。日本酒リキュールもいいと思いますので、どの程度の初心者なのかによって選んでいただきたい」(酒屋やまさ)、「モダンで冷たくしておいしい酒」(地酒の都屋)、「フルーティーでやさしい、甘めの味でスーッと入っていく飲み口のよいもの」(塚本商店)、「フルーティーで華やかな香りで口当たりも滑らかな大吟醸酒や、甘みがありまろやかな味わいの甘口酒、アルコール度数が低い日本酒もおすすめです。カラフルで親しみやすいデザインや、飲み方の説明が付いているものは、初心者も安心して日本酒を楽しめると思います」(酒の新茶屋)といった声があるように、やはり初心者にはフルーティーな華やかさがあって、冷やで味わう日本酒が入門酒としてふさわしいようだ。
純米吟醸酒は程よい華やかさと香り、飲みやすさを兼ね備え、手ごろな価格帯なので、予算によっては候補にあげたい。他の醸造酒に比べて日本酒はアルコール度数が高いため、最近ではアルコール度数が低いタイプも多く販売されているので、意識して選んでみよう。
日本酒リキュールは梅や柚子、イチゴ、ブドウ、アロニアなどのフルーツのほか、ヨーグルトを使ったものもあり、デザイン性も味わいも多彩。贈る相手の好みに合うリキュールを見つけて、新潟清酒の扉を開けてもらおう。
89蔵には上記にあてはまる商品が多数ある。その中で、今回お聞きした酒屋さんイチオシの日本酒をご紹介。
「真稜 山廃純米大吟醸」(逸見酒造:佐渡市)
冷やはもちろん、キリッとした熱燗もいける
「金鶴 本醸造 湊木遣(みなときやり)」(加藤酒造店:佐渡市)
すっきりしながら味わいを感じる、毎日の晩酌におすすめの本醸造酒(PB)
「〆張鶴 純米大吟醸 RED LABEL -レッドラベル-」(宮尾酒造:村上市)
山田錦を35%まで自社精米し、一回火入れのみとした純米大吟醸酒
「呼友 純米大吟醸」(朝日酒造:長岡市)
地元契約農家が栽培する五百万石を使った純米大吟醸酒
「純米大吟醸 八海山 雪室貯蔵三年」(八海醸造:南魚沼市)
魚沼地域に伝わる雪室で3年の歳月貯蔵し、まろやかに熟成した純米大吟醸酒
「髙千代《新潟限定》一本〆40純米大吟醸」(髙千代酒造:南魚沼市)
自社栽培の希少な「一本〆」を40%まで磨いて仕込んだ純米大吟醸酒。新潟県限定販売
「鶴齢《雪室》ヴィンテージ2018」(青木酒造:南魚沼市)
山田錦を37%まで磨いて醸した純米大吟醸酒を雪室で6年間熟成。深みのあるまろやかな味わい
「吟田川 氷の雫 無濾過大吟醸生原酒」(代々菊醸造:上越市)
袋吊りで自然に滴る雫を集めて搾った無濾過生酒。ボトルは飲み終わった後も使用できるので思い出の品に
「真稜 至 純米吟醸」(逸見酒造)
山田錦を使って仕込んだやさしい甘口。フルーティーで、若い女性が必ず「おいしい」と言う
「麒麟山 ながれぼし 純米大吟醸酒」(麒麟山酒造:東蒲原郡阿賀町)
奥阿賀産五百万石を100%使って醸した純米大吟醸酒。軽く冷やして透明感ある味わいを堪能したい
「吉乃川 みなも 中汲み純米大吟醸原酒(新潟S-9酵母使用)」(吉乃川:長岡市)
越淡麗で醸した純米大吟醸の中汲みだけを集めて瓶詰め。新潟S-9酵母を使い、よりキレのある味わいに
「久保田 萬寿 純米大吟醸無濾過生原酒」(朝日酒造)
五百万石を使用。芳醇な香りとコクがありながらもやわらかな口当たりが楽しめる
「八海山 唎酒(りしゅ)」(八海醸造)
![]() 唎酒 No.591 春紫菀(ハルジオン)R5BY |
![]() 唎酒 No.340 山百合(ヤマユリ)2024 R3BY |
![]() 唎酒 No.174 黄菖蒲(キショウブ)R5BY |
![]() 唎酒 No.088 山桜(ヤマザクラ)R5BY |
「食に寄り添い、心はなやぐ酒」をテーマに醸した毎年テーマが変わるシリーズ。蔵人の技術と感性で表現された、年々進化する味わいを楽しめる。
「鶴齢 2024イヤーズボトル」(青木酒造)
希少でコアなファンが多い酒米、雄町40%まで磨き上げた純米大吟醸酒。2024のラベル画はヒグチユウコ氏が描いた
「純米にごり酒 さくらいろ ~SAKURAIRO~」(鮎正宗酒造:妙高市)
甘酸っぱくまろやかな味わいで度数10%の低アルコールのにごり酒。桜ラベルが新たな門出を祝う場にもピッタリ
3月8日(土)・9日(日)に新潟市中央区のコンベンションセンター朱鷺メッセで、「にいがた酒の陣2025」が開催される。コロナ禍後は定員制となったため、チケットは販売直後に完売する人気ぶりだ。
「にいがた酒の陣2024」会場
チケットを購入できたラッキーな方たちは、ぜひ会場で送別に贈るお酒も選んでほしい。80蔵のブースでは、定番からイベント限定酒まで多数が並ぶ。定員制になってからは蔵元とのコミュニケーションもとりやすくなったので、酒蔵の人たちから直接お酒の特徴や飲み方、酒造りに託す思いなどを聞き、試飲しながらセレクトしたい。
残念ながらチケットを購入できなかった人も、酒販店や酒蔵の通販で「にいがた酒の陣」に合わせて造った限定酒なども多数販売されているので探してみよう。
最後に、今回お聞きした酒屋さんのコメントで特に印象に残ったものをご紹介したい。
「送別のお酒は、ご予算や贈る方との関係性、まつわるエピソードにちなんで選ばせていただいております。贈られる方への思いやエピソードをいくつかいただけると、心のこもった、思いが伝わる1本をセレクトできると思います」(地酒の都屋)
「新潟清酒は越後杜氏の歴史に支えられた、真面目で丁寧な酒造りが特徴です。全国的にみても一番よく米を磨き、冬の降雪や寒さを生かした低温長期発酵の技術により、どこの酒蔵のお酒もとても高品質で、外れはないといっても過言ではありません。その素晴らしい新潟清酒の中でも、更に特別感を感じて頂ける、“華やかに送り出す”ことができるお酒を、新潟の人たちは贈ることができます。それを誇りに感じていただけたら、うれしいですね」(酒屋やまさ)
【取材協力】
塚本商店
酒屋やまさ
地酒の都屋
雪国酒舗金澤屋酒店
酒の新茶屋
ニール(『cushu手帖』『新潟発R』発行)
髙橋真理子