12月半ばを過ぎると、新潟県内のスーパーや市場では里芋の売り場が広がり、人参、こんにゃく、筍、銀杏、そして貝柱や昆布などが並ぶ「のっぺ」コーナーが登場する店もある。
正月料理として愛されている新潟の「のっぺ」。
今年最後の「SAKE TOPICS」では、新潟が誇る年越し&正月料理の「のっぺ」と、共に楽しみたい地酒をご紹介。年取り魚などの地域性についても触れてみたい。
フードストーリーとともに味わう日本酒のおいしさを堪能しよう。
文化庁が令和3年から実施している「食文化ストーリー創出・発信モデル事業」。各県にある食文化のストーリーを調査・継承・発信することで、将来的に郷土料理や地元で親しまれている料理を無形民俗文化財としていこうという取り組みだ。
NPO法人にいがた食の図書館では、令和6年度(令和7年3月末まで)のこの事業で、令和の新潟「のっぺ」を徹底調査するとともに、伝承、発信を行っている。今年8月に実施した1300名を超える方たちのアンケート結果をもとに、新潟食料農業大学教授の比良松道一さんが独自の手法で分析した結果をもとに制作したサイトがこちら。令和の新潟「のっぺ」地図
新潟を代表する食文化研究家の本間伸夫さんたちが編集した、大正時代の新潟の食を家庭で再現してもらい記録した『新潟の食事』(農文協、1985年)でも、「のっぺ」の地域性は記されており、その後、本間さんはじめ多くの方たちや行政、団体、学校などで新潟の「のっぺ」の調査が行われてきた。
それらの結果から、上中下越での違い、佐渡や糸魚川には「のっぺ」はないこと、祝儀か不祝儀かによって切り方や材料の数を変えることなどが明らかになっていた。
人の移動が激しくなった現代においても、地域性は存在しているのか。
今回の結果では、地域性が予想以上にしっかりと存在しており、大きく4グループに分けられることがわかった。
全てに共通しているのは、地元で栽培される良質な里芋のぬめりを生かした煮物であることだ。また、家庭の料理なので、細部はそれぞれの家庭の好みが反映されていることも「のっぺ」の特徴だ。
チームだし自慢
新潟市や長岡市など下越から中越の中心地にかけては、だしに貝柱と干ししいたけを使い、そのだしを生かした煮物となっている。そのまま、冷やして、温めてなど、食べ方もさまざま。飲食店では冷たくして供するところが多いようだ。
だしを味わうといっても過言ではないので、その繊細な味に合わせる日本酒は、それぞれの地域の地酒の中でもすっきりとした淡麗タイプがオススメ。
このエリアの酒蔵は阿賀町(2蔵)、五泉市(2蔵)、新潟市(15蔵)、弥彦村(1蔵)、三条市(1蔵)、加茂市(3蔵)、長岡市(16蔵)、小千谷市(2蔵)の全42蔵と県内全体の約半分にあたる。その中でも鮭を入れる地域、鶏肉を入れる地域、根菜と練り物のみ、最後にいくらを飾る、ととまめ(イクラをさっとゆがいて塩漬けしたもの)を飾るなどの違いがあるので、それによって合わせる日本酒の種類も変えてみたい。
日本酒と料理の組み合わせには、同じタイプのものを合わせる「同調」と、違ったタイプのものを合わせて新たな味わいを引き出して楽しむ「第3の味」などがある。
だし自慢グループでは同調がもたらすおいしさを楽しもう。
チームとろみ
こちらはこれまで「のっぺ」の多様性の大きな要素として言われてきた、最後に片栗粉でとろみをつける地域。今まで通り、上越エリアが今回もグルーピングされた。上越市(12蔵)、妙高市(3蔵)、柏崎市(3蔵)の全18蔵がこのエリアにある。
ちなみに片栗粉でとろみをつけることを、昔ながらの言い方で「くずをかく」と言う地域もこのエリアでは少なくないようだ。
とろっとしていて、見た目も中華料理のような「のっぺ」には、従来から言われている上越エリアの地酒の特徴である濃厚な味わいが合う。正に同調のおいしさだ。
このグループは温めて食べることが多いので、燗酒を合わせてみるのもいい。ぬる燗からとびきり燗まで、さまざまな温度で相性を試してみるのも楽しそうだ。お気に入りの組み合わせを探ってみよう。
料理と逆のタイプのスッキリ系を合わせて一度リセットし、次の料理を楽しむという飲み方も試してほしい。
「のっぺ」同様に、多様性が魅力の新潟清酒。一つの酒蔵の中にもさまざまな味わいの商品が造られている。お気に入りの酒蔵の、味わったことがないタイプの商品を飲んでみては。
チーム「具だくさん」
主に県北地域がこのグループにあてはまり、「のっぺ」ではなく「こにも」「大海(だいかい)」など別の呼び名で親しまれている地域もある。村上では「のっぺ」と「大海」の2種類を作るという家庭もあるようだ。
村上市(2蔵)、新発田市(4蔵)、阿賀野市(3蔵)、全9蔵がこのグループに入る。
だしは貝柱を使う地域と煮干しや昆布でとる地域とさまざまだが、具が多いことが特徴だ。新発田市の「こにも」には練り物だけでちくわやなると、油揚げ、厚揚げ、車麩など数種類が入る家庭も多い。ぬめりが強い地元産の里芋を使う地域もあり、片栗粉を使っていないが里芋の自然のとろみを楽しめる。
合わせる日本酒はオールマイティ。スッキリタイプ、旨みのあるタイプ、酸味のあるタイプなど、一つの料理で複数のタイプの日本酒を味わってみたくなる。
チーム「大根&別称」
これまでの調査では、新潟の「のっぺ」の大きな特徴として、大根は入れず、里芋のぬめりを生かした煮物であること、冷めたときに大根はにおうため使用しない、など大根を使わないことが挙げられていた。
しかし今回の調査では大根を使うという地域が一つのグループとなった。佐渡市や糸魚川市など、「のっぺ」はないという地域も含まれている。
糸魚川市や十日町市、津南町などでは「こくしょう」「芋煮」「けんちん汁」などの別の煮物を「のっぺ」として回答する方が多かった。そのためこのチームは上記3グループとは差別化する必要がある。
糸魚川市(5蔵)、南魚沼市(3蔵)、魚沼市(2蔵)、湯沢町(1蔵)、十日町市(2蔵)、津南町(2蔵)そして佐渡市(5蔵)、全20蔵がこのチームとなる。
現在その別称や、「のっぺ」としての認識や共通点などを現地調査中だが、上記グループと同様に言えるのは、その地域の郷土料理と地酒を一緒に楽しんでほしいということだ。
佐渡で煮物といえば「煮しめ」。4月の祭りのときにも作る煮物は、人が集まるお盆や年末年始の食卓にも並ぶという。一つ一つの具が大きく、味が染みた家庭の味は、それぞれの具材と地酒の相性をしみじみと楽しんでみたくなる。
現在、調査事業の一つとして、皆さんの家庭の「のっぺ」を募集中です。
のっぺを作ったら、写真とともにレシピやこだわり、エピソードなどを投稿してください。
「のっぺ」だけでなく、年取り魚にも県内で地域性がある。
糸魚川を境にして東は鮭、西(佐渡を含む)は鰤文化だ。
地酒も、県北の城下町・村上市の大洋酒造では鮭に合う「山廃特別純米 サケ×サケ 大洋盛」を、佐渡市の尾畑酒造では鰤に合う「真野鶴 純米Brease(ブリーズ)」を商品化している。
おなじみの昆布巻きの芯も、下越や中越は鮭だが、上越や佐渡は身欠きニシンなど、県内の食の多様性を知ると、味わう料理も地酒もより奥深く感じ、おいしさが増す。
今年の年末年始は、地元の食×地酒が醸す新たな美味を求めて、さまざまな組み合わせを楽しもう。
本年も「SAKE TOPICS」をお読みいただき、ありがとうございました。これからも皆さまに楽しく新潟清酒の魅力をお伝えできる記事をお届けしたいと思います。よろしくお願いいたします。よいお年をお迎えください。
撮影/岩村文雄、高橋朋子 写真協力/尾畑酒造、大洋酒造
ニール 高橋真理子
(NPO法人にいがた食の図書館理事長)