会場に展示された、これまでの新潟清酒学校の写真を使ったモザイクアート
1984(昭和59)年に開校した新潟清酒学校が今年40周年を迎え、8月23日に記念式典が開催された。
今年7月に40期生14名が入学し、清酒学校の卒業生は約600名、卒業生杜氏は延べ40人以上を数える。
40年間、課題を克服し一歩一歩前進してきた清酒学校は、ゆるぎない強い組織へと成長し、新潟清酒業界をしっかりと支えている。
清酒学校は、江戸時代からの歴史ある越後杜氏の技能を継承する後継者育成を目的に、県酒造組合自らが立ち上げた新潟県独自の酒造技能者育成組織。
世界に類を見ない学校と言っても過言ではない。
開校前年、新潟県醸造試験場の場長だった故嶋悌司さんの呼びかけで全酒蔵にアンケート調査を実施。後継者育成が望まれているという確信のもと、県酒造組合前会長の齋藤𠮷平さんを委員長に、後に3代校長を務めることになる平田大六さんらをメンバーに検討委員会が立ち上がり、県内外の教育機関を視察。試行錯誤を重ね、1984年に新潟清酒学校が産声をあげた。
『新潟発R』15号(2021年春号)でも新潟清酒学校と卒業生杜氏を紹介した
カリキュラムは0からオリジナルで立ち上げ、講師陣は県外から招へいせず、県醸造試験場研究員や新潟清酒研究会メンバー、蔵元経営者など、オール新潟の学校とした。
入学資格は酒蔵に3年以上通年勤務し経営者が推薦する者、1学年の定員は20名、就学期間は3カ年などのルールを決め、走り出した。
開校当時から校舎はなく、座学は県酒造会館の会議室で、実習は県醸造試験場や県内酒蔵の協力のもと見学や実習を行っている。
40周年記念式典の準備は一年以上前から進められてきた。
実行委員会は、前回の30周年記念からこれまでの10年を総括するということで、30~38期生の18人で構成。
実行委員長は30期生の石本酒造・中野功一さんが務めた。
実行委員会メンバーと酒造組合事務局の中澤さん(写真後列右)。前列左から3番目が実行委員長の中野功一さん
開校当時からの新潟清酒学校の決めごとの一つである、年に1回の学校祭も、式典に先立ち開催された。
コロナ禍での2年間の中止を経て、今年で33回を数える。 冒頭挨拶で、学校祭の意義を話す渡邊健一5代校長
教育協会長として挨拶する県酒造組合の大平俊治会長
清酒学校を支える県醸造試験場の青木俊夫場長からも祝辞が寄せられた
学校祭では卒業後3年を経た卒業生による体験発表が行われる。
これは、卒業したら終わりではなく、卒業後どのように3年間の経験を生かしていくかが重要である、という清酒学校の目的を確認する意味をもつ。
体験発表前、緊張の面持ちで壇上に立つ卒業生たち
今年の発表者は35期生9名と34期生1名。
「卒業時に立てた目標と行動のその後」「教えることの難しさ」「5Sとの闘い」「初心を忘れないために」などそれぞれテーマを立て、スピーチを行った。
10名のスピーチから、3年間の経験をどう現場で生かしていくか、それぞれの視点で課題を見つけ、考え、動いてきたことが伝わってきた。
白瀧酒造(南魚沼郡湯沢町)の真田由美子さんは「縁(ゆかり、えん、えにし)をテーマに発表した
学校祭に続き、「新潟清酒学校創立40周年記念式典」が開催された。
実行委員長の中野さんの挨拶の後、32期生、石塚酒造(柏崎市)の金澤要介さんが卒業生代表発表を行った。
造り手としての味へのこだわり、酒蔵を存続していくための商品企画、そして挑戦していきたいことなど、思いの丈を参加者に伝えた。
式典後の特別講演では、日本酒専門WEBメディア「SAKETIMES(サケタイムズ)」編集長の小池潤さんが登壇。
「日本酒産業とSAKETIMESの10年間」をテーマに講演いただいた。
小池さんは柏崎市出身。冒頭、自身も新潟清酒ファンの一人であると言い、日本酒の魅力に出合うきっかけを作ったのも新潟の地酒だったとエピソードを披露。
そして新潟清酒学校については、学校祭を通して改めて素晴らしい組織であることを実感したと語った。
本題では、12のキーワードから、具体例を取り上げながら現在の日本酒市場のトレンドをわかりやすく解説。
参加者は自身の商品や新潟清酒の動きにあてはめながら、熱心に耳を傾けていた。
その後、小池さんと卒業生のトークセッションが行われた。
32期の長谷川酒造(長岡市)・鈴木宏明さん(写真左)と33期の池浦酒造(長岡市)・安井一悟さん(右)が登壇し、清酒学校時代の思い出や現在の仕事、そして将来について、小池さんの質問に回答しながら自身の思いを伝えた。
卒業生代表発表を行った金澤さん(左)と、トークセッションに参加した鈴木さん(中央)、安井さん(右)
式典後の祝賀会では、古町芸妓の艶やかに舞が披露された。
参加者は県内酒蔵の美酒を味わいながら、久しぶりの再会を喜び、学校関係者と清酒学校の思い出や現在の状況について、楽しそうに語り合っていた。
祝賀会のメイン企画は、実行委員会が苦労を重ねて実現させた「MIX(ミックス)誇示」。
37・38・39期生がそれぞれにテーマを設定してブレンドした「ミックス酒」を造り、おいしさを競い合うというユニークな企画だ。
新潟清酒学校では入学式後3日間の集合授業(コロナ禍前までは合宿授業)があり、その期間の夜にクラス対抗で「団結誇示」という催し物対決が行われる。酒造りに大切な和を育む授業の一貫だ。
式典では団結誇示ならぬ「MIX誇示」で、チームの和を競う。
赤チーム・37期生のテーマは「七彩(なないろ)」。
“絡み合う個性と生まれる調和”をコンセプトに、7蔵の純米酒の個性を生かしながら滑らかな味わいに仕上げた。
緑チーム・38期生のテーマは「ファーストコンタクト」。
“若者が初めて出合う日本酒”をイメージし、個性的な酵母と、独自の仕込み方法を採用した2種類の地酒をブレンドした。
青チーム・39期生のテーマは「39ミックス濃醇辛口」。
普通酒から純米吟醸まで、11種類の多様な地酒をブレンドし、今までにない味わいを表現した。
参加者が3種類を試飲し、一番気に入ったものに投票するというルール。
清酒学校の講師を務める作家の石坂智惠美さんも投票に参加!
悩みながら、いざ投票
会の最後に結果が発表され、見事、38期生の「ファーストコンタクト」が優勝した。
優勝した38期生の面々。金一封で祝勝会を開催?
学校祭、記念式典、祝賀会という、新潟清酒学校にとって喜ばしい祝い日。
多くの笑顔と明るい声が会場いっぱいにあふれた。
県酒造組合の大平会長は、先日、世界文化遺産に登録された佐渡金山と清酒学校を重ね、こう締めくくった。
「新潟清酒学校は、今を生きる金山です」
開校からこれまでは遺産となるべきものであり、現在、そして未来はこれからさらに磨き上げていくべき宝である。生き続ける金山として、その輝きを増していくことだろう。
「新時代!! 繋ぐ伝えるSAKE力(ぢから)」
今回の記念式典のテーマに込めた思いを、実行委員長の中野さんは語る。
「清酒学校で生まれた他の酒蔵の人との横のつながり、そして杜氏や先生方との縦のつながりは卒業後も続き、私自身、財産となっています。われわれは40年間続いたこの素晴らしい仕組みを享受するだけでなく、次の時代に繋いでいく義務もあると思っています。それが恩返しでもあると」
開校当時に嶋悌司さんが決めたルールの一つ。
「10年ごとに記念誌をつくる」
この作業も現在進んでおり、年度内には完成予定だ。
10周年ごとに制作されてきた記念誌
40周年記念誌に寄稿された多くの声は、次の10年への大きな力となるだろう。
実行委員の皆さん、県酒造組合の皆さま、お疲れさまでした。
ニール
高橋真理子