新潟県内各地の酒旅を案内するシリーズの最終回は、3つの酒蔵がある妙高市を取り上げる。県南西部の長野県境にある妙高市は、日本百名山に数えられ“越後富士”とも呼ばれる妙高山に抱かれた自然豊かな高原リゾート地。四季折々の自然体験とともに、美酒を醸す酒蔵のストーリーを訪ねてみよう。
妙高市の3つの酒蔵は全て酒蔵見学ができるが、休日や条件などが異なるので、公式サイトや電話で事前に確認してから出かけるのがオススメだ。
妙高はねうまライン新井駅から約10分歩くと、旧北国街道沿いに1842(天保13)年に創業した君の井酒造がある。車の場合は上信越道新井スマートICから約7分。
代表銘柄は「君の井」。頸城(くびき)連峰の最高峰・火打山(ひうちやま)を水源とし、雪解け水がゆっくりと時を経てろ過され流れ込む矢代川(やしろがわ)の伏流水が、君の井酒造の仕込み水となっている。
君の井酒造で使う酒米も矢代川の水を引き込み地元生産者たちが栽培する。
杜氏の早津宏さんもその一人で、仕込みのない夏場は越淡麗を中心とした酒米栽培に励んでいる。米を知り尽くした造り手が、豊かな自然の恵みを大切に、伝統の味を受け継ぐ地酒を醸している。
君の井酒造では蔵付きの自然界の乳酸を生かした、昔ながらの山廃造りも行っており、その奥深い味わいは海外のコンテストでも高い評価を得ている。
水と米のよさを象徴する君の井酒造のオススメの1本が「君の井 山廃 純米吟醸」。
豊かな旨みときれいな味わいを持ち合わせた、飲み飽きしない山廃酒だ。
これからの季節にぜひ味わいたいのが夏季限定・冷酒専用の「君の井 純米 淡冷酒」。酒器もよく冷やして。猛暑の晩酌にロックで楽しむのもいい。
酒蔵の向かいには江戸時代創業の菓子店養老本舗池田屋があり、酒蔵近辺を歩いているだけで旧街道の風情を体感できる。養老本舗池田屋では妙高市の3蔵の地酒を使った「純米酒かすてら」も販売しているのでチェックしてみよう。
酒蔵から徒歩約10分の場所にある寿し芳では直江津港で揚がる旬の魚介を使ったすしとともに妙高市の地酒を堪能できる。
寿し芳では妙高高原温泉郷が“7つの温泉地、5つの泉質、3つの湯色”を特徴とすることから妙高市観光局で取り組んでいる「七五三(なごみ)御膳」(要予約)も提供。“七つの料理 五つの食材 三つの発酵食”で構成されるスペシャルなランチ「七五三御膳」を味わってみたい。
新井駅から車で約10分、火打山を望む矢代川沿いに1860(万延元)年に創業したのが千代の光酒造だ。車の場合は新井スマートICから約2分。
代表銘柄は「千代の光」。別ブランドとして7代目の池田剣一郎さんが手掛けている「Kシリーズ」も人気だ。
春から初夏限定の「純米吟醸KENICHIRO 雄町(おまち) 無濾過生原酒」は酒米最古の品種といわれる雄町を使い、搾りたてのフレッシュでボリューミーな味わいを堪能できる。火入れしたものは秋に登場する。
毎年5月中旬に発売される夏限定酒「千代の光 生貯蔵酒」はロックで味わうのもオススメ。生酒のまま貯蔵・熟成させて瓶詰め時に火入れしているので、程よく味がのり、スッキリとした味わいの中に絶妙な旨みを感じる。
千代の光酒造では2年ほど前から、0℃で瓶貯蔵した原酒を好みの組み合わせでブレンドするアッサンブラ―ジュの取り組み「My クラフト chiyo」をスタート。
世界で一つの味わいの地酒ができるので、酒販店がオリジナル商品を作ったり、最近では一般の問い合わせも増えてきたという。
参加方法は2種類。
8種類のブレンド酒を自宅へ配送してもらい、試飲し、好みの種類と比率を伝えて商品化してもらう方法と、酒蔵で参加する方法だ。酒蔵見学を兼ねて蔵を訪ね、自分だけの1本を作ってみるのも楽しそうだ。公式サイトから予約ができる。
妙高市のもう一つの酒蔵、鮎正宗酒造は妙高はねうまライン関山駅からタクシーで約10分。車の場合は新井スマートICまたは中郷ICから約20分。長野県境に近い国道292号線沿いにあり、蔵の裏に関川の支流である長沢川が流れる。
創業は1875(明治8)年。「鮎正宗」の銘柄は、昭和初期に赤倉に滞在した皇族・若宮博義殿下が蔵のある猿橋で鮎釣りをした折りに命名したという。
酒蔵がある瑞穂地区は「みずほ」の名の通り、豊かな天然水がどの家の敷地からも湧き、茅葺き屋根が歴史を表す酒蔵内の井戸からは毎時5tの湧水がこんこんと湧き出ている。
定番の「鮎正宗」シリーズとともに女性を中心に人気を集めているのが「純米にごり酒 毘(びしゃもん)」だ。
水のよさを生かしたスッキリとした上品な甘みと酸味を感じるにごり酒は、暑い夏によく冷やして味わいたい。ロックで味わうにごり酒は新鮮な爽やかさがある。
6代目の飯吉由美さんが企画し杜氏の上石修治さんと試行錯誤しながら生み出した発泡性清酒「Sweetfish(スウィートフィッシュ)ブル―ラベル」も夏に楽しみたい1本。瓶内二次発酵によるきめ細やかな泡が涼やかさを運んでくれる。
酒蔵の命ともいえる水を守るため、春と夏には地域住民でつくる「猿橋城址保存会」の一員として水源地の山(写真下)を整備する活動に参加している。
7月には4か所の城址をリレーし、それぞれの城址でのろしを上げる「山城のろし上げリレー」が開催され、地域一体となり次世代へ歴史と自然の豊かさを伝えている。
3つの蔵とセットで楽しみたい初夏の観光スポットとしてまず紹介したいのが、日本の滝百選に名を連ねる苗名滝(なえなたき)だ。駐車場から約15分歩き、落差55メートルの迫力ある名瀑と、涼やかな空気を体感したい。
標高1300mの笹ヶ峰高原でトレッキングやハイキングを楽しみ、心身ともに癒されるのもいい。
無色透明な単純温泉と硫黄泉(黒泥湯)があるにあるいもり池も訪ねてみたい。いもり池から見る妙高山の絶景は旅の素晴らしい土産になるはずだ。
いもり池周辺では毎年5月(2024年は5月11日)に妙高高原に春の訪れを告げるイベント「艸原祭(そうげんさい)」が開催される。
スキーゲレンデの茅場に火が入り「艸」の火文字が映し出され、ランタンと花火が打ち上げられる。幻想的な初夏のイベントに出かけてみたい。
妙高の地酒は各蔵で購入することができるが、帰路に買うなら、道の駅あらい内のカンパーナあらいに立ち寄ろう。かんずり工房では定番から季節限定酒までそろう。妙高の特産品「かんずり」もさまざまな種類があるので、目的や好みに合わせてお気に入りをゲットしよう。
かんずりを使った料理と妙高の地酒を味わいながら、旅の余韻に浸りたい。
写真協力/妙高観光局、君の井酒造、千代の光酒造、鮎正宗酒造、カンパーナあらい
ニール(『cushu手帖』『新潟発R』発行元)
高橋真理子