新潟県内各地の酒旅コースを紹介し、リアルな酒旅や旅の土産選びの参考にしていただくシリーズ。今回は前回に続き上越市。後編として6つの酒蔵を、今週末に迫った一大イベント「越後・謙信SAKEまつり」や、観光スポット、食情報とともに紹介する。
2023年で18回を数える「越後・謙信SAKEまつり」。今回は10月21日(土)、22日(日)に開催される。上越市と妙高市の日本酒蔵15蔵の日本酒のほかに佐渡市や魚沼市、新潟市の酒蔵、さらに上越市内のクラフトビールやクラフトジン、岩の原ワインも出店する。
毎年酒蔵が持ち回りで醸すイベント限定酒「車懸(くるまがかり)」も気になるところだ。
2023年の「車懸」
今年の担当は上越市の妙高酒造。上越産五百万石を50%まで磨いた純米大吟醸酒で、搾った生酒を瓶詰めし、瓶燗殺菌(瓶火入れ)した後、冷蔵庫で程よく熟成。品のある香りと味わいを堪能できる1本だという。
9月30日には春日神社に上越・妙高市の蔵元が集まり、「車懸」を奉納。4年ぶりの制限なしの通常開催の成功を祈願した。
「越後・謙信SAKEまつり」で上越エリアの酒と食のおいしさを存分に楽しもう。
今回紹介する6つの酒蔵のうち、越後杜氏を多数輩出してきた地の一つ、吉川区にあるのがよしかわ杜氏の郷と加藤酒造だ。
吉川区(旧吉川町)では1957(昭和32)年に県立吉川高校に醸造科が置かれ、清酒や発酵食品分野のスペシャリストを養成。残念ながら吉川高校は2008(平成20)年に閉校したが、現在でも卒業生たちが県内の酒蔵など発酵業界で活躍している。
吉川区の酒造りの歴史を受け継ぎ、1999(平成11)年に創業したよしかわ杜氏の郷は、道の駅よしかわ杜氏の郷にある酒蔵だ。
酒蔵の施設内では日本酒や地場産品、酒粕を使ったジェラートなどを販売。今年7月から販売が始まった道の駅カードも購入できる。
2階には吉川杜氏の歴史や酒造りについて紹介するパネルが展示され、ガラス越しに見学ができる。見学後は無料試飲も楽しめる。ドライバーは売店に所狭しと並ぶ銘酒の説明をスタッフに聞き、お気に入りを購入しよう。
代表銘柄の「よしかわ杜氏」「天恵楽」のほか、安塚区にある雪室安塚ユキノハコで雪室熟成させた純米酒「雪ざかり」もある。雪室貯蔵ならではの旨みや甘味を感じつつ、地元産五百万石を使った飲みやすさをもつ純米酒だ。
糸井重里氏が命名したブランド「有りがたし」の純米熟成原酒もオススメだ。玄米をほとんど削らない、90%精米の吉川産山田錦を使って醸した純米酒の原酒を、さらに熟成させた1本。熟成によるまろやかさとともに、香ばしさも楽しめる。
道の駅よしかわ杜氏の郷には、酒蔵のほかに直売所や日帰り温泉、食事処、観光案内所もある。
テナントの佐々木食品ともだちでは、上越市の郷土料理を代表する押しずしを購入することができる。
以前佐々木食品の押し寿しを取材させていただいた。
佐々木食品ともだちの佐々木陽子さんと博一さん
深夜から作業が始まり、押し寿しとよもぎ餅、五目おこわ、笹団子、ちまきを、代表の佐々木陽子さんが夫の博一さんにサポートしてもらいながら次々と作っていた。
押し寿しは佐々木家に代々伝わる木箱を使い、笹を底に敷いて酢飯を広げ、その上に卵と鶏そぼろ、笹、酢飯、マスの酢漬け、笹、酢飯、ヒジキやシイタケ・ニンジン・ゼンマイなどを煮た五目と呼ばれる具をのせて、上に笹を並べたらフタをして、重石を乗せて約3時間で完成。
笹ごとカットして小分け包装していく。佐々木食品の押し寿しは、道の駅のテナントと直売所のほか、上越市の旬菜交流館あるるん畑でも販売している。
吉川区にあるもう一つの酒蔵、加藤酒造の創業は1864(文久4)年。
現在は「越後屋」の銘柄で、飲む人に寄り添い、手軽に買えて気軽に楽しめる“最高の晩酌酒”を目指している。
オススメは「越後屋 純米吟醸」。
米の華やかな旨みと味わいを楽しめる1本で、ブルーチーズなどの濃厚な味わいのものに合うという。試してみたい。
よしかわ杜氏の郷から日本海方面へ車で約10分。大潟区の海沿いに天保年間(1830~44)に創業したのが「越後自慢」で知られる小山酒造店だ。
2021年に事業承継し、阿賀野市にあるバイオテックジャパンが、槽(ふな)搾りや瓶燗火入れなどの伝統の技を守りつつ、乳酸発酵による米の低タンパク化などを取り入れた新しい酒造りに挑戦している。
新たな挑戦によって生まれた「純米 醸し香(かもしか) 翠」は、米をほとんど削らず、乳酸発酵により米のタンパク質を少なくして醸した1本。濃厚な甘みとシャープな酸味、ふくよかな香りが特徴だ。
まだ酒販店では購入できないが、22年の「越後・謙信SAKEまつり」や23年の「にいがた酒の陣」で販売し、新潟清酒ファンから好評価を得ている。10月21・22日の「越後・謙信SAKEまつり」でも味わえる。今後、バイオテックジャパンの楽天ショップでの販売も予定しているという。
「越後自慢」は新潟駅構内のぽんしゅ館新潟驛店などで販売している。
残念ながら24年秋ころには、酒蔵は上越市から阿賀野市へ移転予定なので、「越後自慢」の味わいをしっかりと記憶に刻んでおきたい。
この後ご紹介する3蔵は、全て酒蔵見学ができるので、試飲も楽しみたい場合は、電車や路線バス、タクシーを利用しよう。
直江津駅からえちごトキめき鉄道「妙高はねうまライン」で妙高高原方面へ。
途中、直江津駅の次の春日山駅で下車し、上杉謙信公ゆかりの春日山にある史跡を巡ろう。紅葉が見ごろを迎えるのは11月中旬から下旬ころ。
春日山駅から徒歩か路線バスを利用し、春日山麓に立つ林泉寺へ。謙信公が7歳から14歳まで文武修行をした曹洞宗の寺だ。
林泉寺(初夏)
林泉寺から徒歩約30分の場所にあるのが、謙信公を祭神に祀った春日山神社。
春日山神社は紅葉の名所としても知られる
上越市出身の童話作家・小川未明の父、旧高田藩士の小川澄晴が創設したことでも知られる。春日山神社へ向かう途中、春日山城跡の中腹には、1969(昭和44)年の大河ドラマ『天と地と』放映を記念して制作された上杉謙信公の銅像がある。
春日山城跡の中腹にある謙信公像
城跡の標高約180mにある本丸跡からは、日本海や頸城平野が一望できる。時間をかけて城跡散策を楽しみたい。御朱印は神社売店で頒布している。
春日山駅へ戻りながら、上越市の歴史に関する展示や出土品の復元作業を見学できる上越市埋蔵文化センターに立ち寄ろう。ここでは春日山城の御城印(ごじょういん)を頒布している(有料)。
再び春日山駅へ戻り、妙高はねうまラインで次の高田駅で下車。
高田駅から雁木通りがある本町6丁目や大町5丁目周辺を歩き、町家交流館高田小町や旧今井染物屋、日本最古級の現役映画館高田世界館などを見学しながら、武蔵野酒造へ。
町屋交流館高田小町
高田世界館
武蔵野酒造といえばカタカナの入った銘柄「スキー正宗」で知られ、レトロでお洒落な復刻版ラベルも販売している。
ユニークな商品として、酒造期限定・完全予約制で販売する「スキー正宗 朝一搾り」がある。
「スキー正宗 朝一搾り」。写真は令和三年のもの
蔵出し日によって、普通酒から純米大吟醸酒まで何が届くのかわからない。ワクワク感を味わえる1本だ。
今年は10月20日から予約開始。「越後・謙信SAKEまつり」で配布するチラシまたはオンラインストアから予約できる。
酒蔵見学は要予約、無料と有料の3コースがあり、公式サイトから予約を。
武蔵野酒造とセットで楽しみたいのは、酒蔵から徒歩10数分の高田城址公園。四季折々の美しさがあり、周囲には上越市立歴史博物館、小林古径記念美術館、市立図書館内の小川未明文学館などのスポットもある。
高田のグルメスポットでは、江戸時代末からの歴史をもつ百年料亭 宇喜世や、居酒屋探訪家の太田和彦さんお墨付きの雁木亭にも立ち寄ってみたい。
百年料亭宇喜世の客室。写真は1階竹の間
宇喜世の松茸ご飯(写真はイメージ)
太田和彦さんが雁木亭を訪ねた酒紀行は「新潟発R」2017春・本誌2号で掲載。その後太田さん自身のテレビ番組でも紹介された
高田城址公園から徒歩10数分の場所にあるのが妙高酒造。
1815(文化15)年創業、代表銘柄は「妙髙山」。杜氏を務める平田正行さんは頸城区(旧頸城村)出身で、米農家でもある。県内最年少杜氏となってから半世紀以上、にいがたの名工にも認定されている名杜氏だ。
平田さんが栽培した五百万石を使った「杜氏栽培米仕込み 純米吟醸妙高山」はふくらみのある旨みとコクを味わえる杜氏渾身の1本。味わってみよう。
最後に紹介する上越酒造は、高田駅や南高田駅からはタクシーを利用して20分弱。
1804(文化元)年に創業し、「越後美人」と「越の若竹」の2銘柄を醸している。
2021年の事業承継後も創業家の飯野美徳さんが会長として酒造りのアドバイスを行い、リニューアルした酒蔵では最新機器を導入しつつ、伝統の槽搾りを受け継ぎ、新たなチャレンジをしながら地元で愛されてきた味を守り続けている。
カップ酒の「カップわかたけ」も槽搾りの酒なので、この贅沢なカップ酒もぜひ味わってほしい。
「越後美人 大吟醸酒」は県産山田錦を35%まで磨き、低温長期発酵で醸し、華やかな香りとともに深みのある味わいが特徴。
日本酒度がマイナス66という超甘口の「越後美人 純米大吟醸酒 甘雫(あましずく)」は、デザートワインの代わりとしても楽しめ、8%の低アルコールなので初心者にもオススメだ。
酒蔵見学は要予約、お盆と年末年始を除き行っている。公式サイトの問い合わせフォームまたは電話で連絡を。
多彩な自然のもと、歴史物語が点在する上越の地にある12の酒蔵。
それぞれの個性あふれる地酒と出合いながら、上越ならではの旅を楽しんでほしい。
撮影/今井達也(中田写真事務所)
写真協力/新潟県観光協会、よしかわ杜氏の郷、加藤酒造、小山酒造店、武蔵野酒造、妙高酒造、上越酒造、「越後・謙信SAKEまつり」実行委員会
ニール
高橋真理子