新潟県内各地の酒旅コースを紹介し、リアルな酒旅や新潟清酒購入の参考にしていただくシリーズ。今回は上越市前編として6つの酒蔵と、晩夏から秋に訪ねたい上越市の観光スポットを紹介する。
10月21日・22日に高田駅から徒歩約5分の高田本町商店街で第18回「越後・謙信SAKEまつり」が開催される。
全長800ⅿの商店街がまるごと会場になる酒イベントとして、年代を問わず楽しめるのがこのイベントの大きな魅力だ。イベントに参加する前の予習としても、今回の特集を活用してほしい。
上越市には12の酒蔵がある。海沿いや里山、道の駅など、自然環境も歴史もさまざまな酒蔵を2回に分けて取り上げる。
柏崎市に隣接する柿崎区にある頚城酒造と代々菊醸造は、どちらも名水とつながりがある日本酒を醸している。
頚城酒造から車で約20分の場所に、平成の名水百選に選定されている大出口泉水(おおでぐちせんすい)がある。尾神岳の中腹、標高約350ⅿから湧き出る名水で、日本海や頸城平野が一望できるスポットでもある。
平成の名水百選、大出口泉水
大出口泉水に立つ案内板には、名水で知られる大出口泉水と吟田川湧水が紹介されている
大出口泉水からの眺め
1697(元禄10)年創業の頚城酒造では、自家井戸とともにこの名水を仕込み水に使用。主に純米吟醸や大吟醸など長期低温発酵により醸す酒に、より軟水である大出口泉水の水を使っている。
頚城酒造の「越路乃紅梅」の大吟醸酒(出品用)は、2023年4月に表彰式が行われた越後杜氏のナンバー1を決める歴史ある品評会「越後流酒造技術選手権大会」で首席の県知事賞を受賞した。
季節ごとに魅力的な限定酒を発売している頚城酒造の秋の注目は、何といってもコレ。
「越路乃紅梅 秋刀魚と呑む純米原酒」
9月に発売される「越路乃紅梅 秋刀魚と呑む純米原酒」。数年前に登場したころは、合う料理を前面に打ち出す商品は珍しく、デザインの斬新さとともに話題となった。現在はサンマの旬とともにこの酒を待ちわびているファンも多い。
同じ酒の生原酒も8月に販売された。
「越路乃紅梅 サンマと呑む純米生原酒」
名水に関係するもう一つの酒蔵、代々菊醸造の創業は江戸時代の天明期(1781~89年)。
この蔵では、大出口泉水の案内板でも紹介されている名水「吟田川(ちびたがわ)湧水」を仕込み水に使っている。
吟田川湧水。「冷たい水」の「冷」が「吟」に、変化したという説もある
尾神岳の中腹、標高約250mの不動明王霊地から湧出している水温約10℃の超軟水で「発酵がゆっくり進み、柔らかい、いい酒ができる」と代々菊醸造社長の中澤房尚さん。かつては不動明王霊地として信仰の場所だった。
代々菊醸造では、吟田川(ちびたがわ)湧水と自社田で栽培した米を原料に醸す、「吟田川」シリーズを販売している。
名水を生かしたきれいな味わいとともに、「ちびたがわ」という音の響きのかわいらしさから、県内外にファンをもつシリーズだ。
9月には酒米越淡麗を使って仕込んだ吟醸酒をひと夏熟成させた限定酒「吟田川 越淡吟醸 ひやおろし」が発売される。
「吟田川 越淡吟醸 ひやおろし」
定番酒との飲み比べも楽しんでみたい。
酒蔵見学も行っており、前日まで要予約、10~16時(休憩時間を除く)、1回6人まで。社長の中澤さんの酒器コレクションも一見の価値ありだ。
上越市の旧東頸城郡、中頸城郡にも酒蔵が点在している。
南魚沼市の六日町駅と上越市の犀潟駅を結ぶ北越急行ほくほく線の浦川原駅の近くにあるのが新潟第一酒造。創業は1922(大正11)年。
創業当時の酒蔵名は亀屋酒造。1963(昭和38)年に旧松之山町(現十日町市)の越の露酒造など3蔵と合併し新潟第一酒造が誕生。さらに65(昭和40)年に旧中里村(同)の一川酒造が加わった。
この蔵では、合併後の初代社長を務めた旧越の露酒造の村山政光氏が文豪・坂口安吾の甥であったことから、平成に入って「辛口本醸造 越の露」を復活させ、その後「松之山・安吾まつり」をきっかけに「純米吟醸 越の露」を新たに加えた。
「純米吟醸 越の露」
仕込み水には十日町の名水・柳清水を、ラベルには安吾が描いた書画が使われている。
ちなみに十日町市松之山の旧越の露酒造の邸宅は、大棟山美術博物館として、坂口安吾の貴重な遺品や書画、庄屋の暮らしを伝える品などが展示されている。(冬季積雪期は休館)。足を延ばしてみるのもオススメだ。
新潟第一酒造から車で約10分。
旧三和村にあるのが「雪中梅」で知られる丸山酒造場。創業は1897(明治30)年。
淡麗旨口の酒で親しまれており、そのきっかけは4代目丸山三郎治さんの地元の人への思いだった。仕事の疲れを癒し、なおかつ飲み過ぎて翌日に響かず懐も痛まない「2合で満足できる酒」として、辛口ではなく旨口の酒質にこだわったという。
丸山酒造場では定番3種類のほか、季節限定酒を販売。
「雪中梅 特別純米酒」
7~9月限定販売の「雪中梅 特別純米酒」は、上越産五百万石を使い、こだわりの蓋麹(ふたこうじ)法で麹を作り、掛け米に兵庫県産山田錦を使った贅沢な純米酒。きれいな味わいが特徴だ。
「雪中梅 梅酒」
フランスで開催されている、女性のワイン専門家のブラインド審査による評価「フェミナリーズ・ワインコンクール」で2022年にリキュール部門金賞を受賞した「雪中梅 梅酒」は9月に今季分が発売される。
酒蔵の見学はできないが、酒の購入は可能。里山に抱かれた自然豊かな田園地帯を訪ねてみたい。
丸山酒造場から車で約10分の場所にはあおき味噌があり、上越特有の浮き糀味噌を販売している。車で約15分の岩の原葡萄園では、9月30日には収穫体験のイベントを開催予定だ。
岩の原葡萄園の第二号石蔵。1898(明治31)年建造で上越市指定文化財に登録、現在は樽熟成庫として使用
里山から日本海へ。丸山酒造場から車を約20分走らせた海沿いにあるのが竹田酒造店。
信越本線土底浜(どそこはま)駅から徒歩約15分の場所だ。創業は1866(慶応2)年。「小さな蔵の大きな夢 日本一の酒造り」を目指し、旨口の「かたふね」シリーズを展開し、国内外のコンテストでも多数入賞いている。
「かたふね はなじかん」
さらに初心者向けの商品として開発した貴腐ワインのような甘さときれいな味わいの「かたふね はなじかん」は2021ワイングラスでおいしい日本酒アワードの最高金賞を受賞した。
大潟小学校の生徒とともに行った酒米の田植えの様子
2年前からは地元大潟小学校の生徒と酒米の田植えや稲刈り、酒造りを一緒に行い、その酒を20歳になったときにプレゼントするという取り組みも行っている。
初めて味わう日本酒が、自分たちの汗水の結晶である1本なんて、最高に贅沢な成人の贈り物だ。そのおいしさは計り知れず、日本酒に対する思いも特別なものになるだろう。
酒蔵見学は冬季限定、1回5人以下、要予約。
土底浜駅から直江津駅経由でえちごトキめき鉄道の谷浜(たにはま)駅で下車。駅から徒歩1分の、日本海を目の前に望む酒蔵が田中酒造だ。創業は1643(寛永20)年。
酒蔵の目の前を電車が走り、その先に日本海がある
地元で愛される「能鷹」シリーズの季節限定版が「特別純米熟成酒 秋いろ」。
「能鷹 特別純米熟成酒 秋いろ」
ひと夏超えてほどよく熟成した純米酒は、秋の海山の幸と相性抜群だ。さらに田中酒造の商品で注目したい2本がある。
「上越市水族館うみがたり」の日本海テラス。夕景も美しい
うみがたりチューブ
1本は直江津駅近くにある上越の人気観光スポット、「上越市水族館うみがたり」のマゼランペンギンをモチーフにした「能鷹 吟醸生貯蔵ペンぎんなま」。フルーティーな吟醸酒だ。
「能鷹 吟醸生貯蔵ペンぎんなま」。正面からラベルをのぞくと、水族館の動物たちのシルエットが浮かび上がる
水族館では販売していないが、直江津地区の酒販店などで購入することができる。
もう1本は上越市出身の“郵便の父”前島密(まえじまひそか)をモチーフとした「能鷹 純米酒 前島密ラベル」。
「能鷹 純米酒 前島密ラベル」
ポスト型の箱入りで、お土産にも最適だ。
酒蔵から車で約25分の場所の前島密生家跡には前島記念館がある。
前島記念館では前島密の功績を紹介する展示や遺品、遺墨などを見学できる
記念館で前島密像に触れた後、近隣の酒販店でコラボ酒をお土産に購入したい。
田中酒造でも商品の購入や、酒蔵の見学ができる。見学は1週間前までに要予約。
海、山、里、そして名水。何度訪ねても新しい魅力に出合える奥深い上越市の酒旅へ、出かけてみよう。
写真協力/上越市水族館うみがたり、前島記念館、頚城酒造、代々菊醸造、新潟第一酒造、丸山酒造場、竹田酒造店、田中酒造
ニール
高橋真理子