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コラム 2023.06.22

若者と日本酒 新潟大学〈雪見酒〉編

県内にある2つの大学日本酒サークル

新潟の若者たちはどのように日本酒を楽しんでいるのか。

今回は新潟大学の日本酒サークル〈雪見酒〉の活動を取材し、若い世代ならではの楽しみ方、感じ方を紹介する。

県内の大学で現在活動している日本酒サークルは主に2つ。

創立約40年の長岡技術科学大学の〈しゅがく〉と、新潟大学の日本酒サークル〈雪見酒〉だ。

〈しゅがく〉の活動は『新潟発R2017春号で取材。

顧問の伊東淳一先生は「日本酒の飲み方も含めてとても真面目に取り組んでいるサークル。学長表彰もいただいたことがある」と高く評価していた。

現在の活動内容を代表の廣池将伍さん(宮崎県出身)に聞いた。

「部員は106名。“日本酒を学び楽しむ”をモットーに、コロナ前は月に1度の定例会を開き、各回のコンセプトの日本酒の味や製法を学び、楽しんでいました。その他に学内に酒蔵さんを招いての即売会『朱陣(しゅじん)』や、大学の文化祭でのふるまい酒などが主な活動でした。コロナ禍にはオンライン飲み会や勉強会を行っていましたが、現在は定例会が復活。越銘醸(長岡市)さん所有の田んぼでの田植え体験などを行っています」

さらに今年度の文化祭から酒販を、来年度には学内対象の「朱陣」の復活を予定しているとのこと。

宮崎県出身の廣池さんが感じる新潟の日本酒の最大の魅力は「何といっても、県内どこに行ってもおいしい日本酒があることです」。

今秋の文化祭で〈しゅがく〉の活動に触れてみよう。

留学生も参加する日本酒サークル

もう一つの大学の日本酒サークルとして活動している新潟大学の〈雪見酒〉。

それまで非公認で活動していたサークルがあったが、「ただの飲みサークルではなく、試飲したらレビューしたり、日本酒に対する知識を身につけていけるようなサークルを作り、若者が気軽に日本酒を楽しむきっかけを作りたい」という有志の思いが形となり、2011年に活動が始まったという。

2015年からは新潟清酒金の達人でもある同大学の渡辺英雄先生が顧問となり、定期的な活動をしている。

 

現在、卒業生を含めてグループラインに参加しているメンバーは約185人。現役の学生は約40名。メンバーにはオランダと韓国からの留学生4名もいる。

コロナ禍でリアルな活動ができなかった時期が続いたが、20232月中旬に久しぶりにリアルな活動を行うということで取材に伺った。

ぽんしゅ館新潟驛店を会場に、〈だしと日本酒のマリアージュ〉をテーマとした会が行われた。

3種類のだしをそれぞれカップに入れて、3種類の地酒との相性を確認していく。

この日用意した新潟清酒は「純米大吟醸 今代司 干支ラベル2023」(今代司酒造 /新潟市)、「姫の井 本醸造」(石塚酒造/柏崎市)、「八一 特別純米」(高橋酒造/長岡市)の3種類。

 

それぞれの相性について感じたことを、メモ帳などに記入していく。真剣な中にも、新たな発見を得ることを楽しんでいる様子が伝わってきた。

この会の様子は『新潟発R2023春「入門酒」の扉で紹介させていただいた。

月1回の定例試飲会に参加

定例の月1回の試飲会も復活したとのことで、参加させてもらうことに。

会場は新潟大学五十嵐キャンパス内にある六花寮の集会室。今回のテーマは「宮城の日本酒」。宮城出身のメンバーが「出身地の地酒のことをもっと知りたい!」との思いで企画。

今回の5種類は「阿部勘 純米吟醸 夏酒 金魚ラベル」(阿部勘酒造)、「祥雲金龍 純米吟醸」(一の蔵)、「純米吟醸 伯楽星」(新澤醸造店)、「純米吟醸ささら あたごのまつ」(新澤醸造店)、「純米生酒浦霞」(佐浦)。

事前にメンバーに日本酒評価シートが共有され、5種類の日本酒それぞれの透明度、香り、甘辛、酸味、旨味、濃淡、余韻、好みを5段階で評価していく。

「香りの内容 〇〇っぽいみたいな」「また買ってでも飲みたい?」、そして自由なコメントが必須項目になっているのが面白い。

当日はそれぞれがつまみを持ち寄り、幹事による5種類のお酒の解説があり、1種類ずつ試飲をしていく。

幹事の説明が終わると互いに注ぎ合い、試飲。

真剣な表情で香りや味わい、余韻を確認し評価シートを記入したら、自由に感じたことを表現し合う。

 

その後、渡辺先生が1本ずつ解説。

「甘いと思った人は?」「すっぱいと思った人は?」と、一方的な解説ではなく、学生たちの意見を聞きながら説明していく。

学生たちの真剣な表情から、日本酒の知識を得たい、自分の感じ方を確認したいという思いが伝わってくる。

 

サークル長の宮本仁奈さんは東京都出身。両親が日本酒好きだったので、日本酒にはいいイメージがあったという。

「ただ、意識しないと日本酒好きの人にはなかなか出会えない」と感じていたときに、部活動の先輩から誘われて雪見酒に入会した。

「価値観を共有できたり、自分が思いつかない表現に出会えたり、日本酒ならではの新しい知識が増えていくのが楽しい」と明るく語る。「飲めば飲むほど好きになります」

 

新潟県の日本酒の魅力は「県土が長いので、地域性によって違う味わいの日本酒が楽しめること。最近は全国的にも人気のレアな日本酒でも、近くの酒屋さんなどで手に入るのもいいですね」と宮本さん。

さらに「辛口は若い人たちから敬遠されがちで、入門酒として甘いお酒から入る人が多いのですが、飲んでいるうちに辛口のよさにも気づいてくるというパターンもあるようです」となかなかに深いコメント。

「甘口も辛口もあるのが新潟の魅力」。なるほど。

「甘口は単独で飲むにはいいが、料理に合わせるなら後味がきれいな辛口ですね」と日本酒業界の方たち顔負けのコメントも。

5種類の解説が終わると、持ち寄ったおつまみを食べながら、自由に酒談義。

韓国とオランダの留学生も楽しそうに日本酒を味わい、談笑。

「韓国では日本酒の値段が日本の6倍くらいなので、なかなか気軽に飲むことができない」「オランダではビールやワインが主流だが、それらに比べて日本酒は味の幅の広さやさまざまな温度で楽しめるので、深みがある」と、日本酒について語ってくれた。

日本酒はもはや〈世界酒〉!

 

終盤には、それぞれのお酒を燗して味を比較。

銅や錫、ガラス、木など酒器を変えて、素材の違いによる味の違いも試した。

味の変化に驚き、それを自分の言葉で表現し、語り合い……。

嗜好品である日本酒を、探求心をもって味わっている様子は、とても新鮮だ。

 

会に参加してみて、若者ならではと思ったのは、会話にさまざまな話題の銘柄がぽんぽんと飛び出してくることだ。

突然「タクシードライバーは……」と、何の話かと思ったら、岩手の喜久盛酒造が2005年に発売した銘柄だった。

日本酒専門サイトやSNSなどを情報源に、県内外問わず話題の日本酒にアンテナを張っている。「地元の酒屋さんからもいろいろな情報をもらっています」という学生も。若者と酒屋の距離が近いことも、新潟の日本酒の魅力の一つだろう。

 

宮本さんにサークル長としてこれからやりたいことを聞いた。

「コロナ禍でできていない酒蔵見学へ行くことや、近くの酒蔵さんで仕込み体験をしてみたいですね」と、目を輝かせた。

 

顧問としてサポートする渡辺先生は「何といっても日本酒を楽しく、おいしく飲みたいというメンバーが、男女問わず集まっていることが、このサークルの一番の魅力だと思います。日本酒の魅力に触れることで、食文化全体に興味がわくという学生が多く、若い世代にとって貴重な経験になっていると感じています」と評価する。

そして「学生時代から日本酒を飲み、そのおいしさやストーリーに触れることで、卒業後にその魅力を多くの人に伝えられる人材になって欲しい。日本酒には人と人を繋ぐ力があると私自身も感じていますので、日本酒を通じて、大学時代からたくさんの人たちと出会って、学内だけに留まらない活動の輪を広げてもらいたいですね」と期待する。

 

たった1回の試飲会に参加しただけだったが、彼らの知識欲、それを楽しみに変える力に脱帽し、パワーに圧倒され、わくわくした。その根底には「せっかく新潟に来たのだから日本酒を知りたい、楽しみたい」という思いがあるのだろう。

これからは世界唯一の学問「日本酒学」を発信する大学の日本酒サークル、という思いも加わってくるはずだ。

若者から学ぶことは多い。

まずは「タクシードライバー」を試してみたい。 

 

撮影(ぽんしゅ館)/Studio Activist

                        

cushu手帖』『新潟発R』編集長

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