日本酒を搾ったときに誕生する酒粕。
「粕」とはいっても、実は栄養満点で、元気&きれいの源であることは、周知の事実。
発酵食品の一つとしても注目され、酒粕を使ったさまざまな食品も販売されている。
佐渡のケーキ店「モンブラン」で見つけた加藤酒造店の「金鶴」の酒粕を使ったレアチーズケーキ
酒造りの最盛期になると、県内の酒屋や酒蔵の売店では、レジ脇などで酒粕が販売される。清酒を購入するとサービスしてくれる、なんていう嬉しいことも……。
原材料にこだわり、丁寧に造られる新潟清酒だから、それを搾った酒粕も当然おいしい。
料理研究家の中島有香さんの酒粕レシピを紹介した『発酵美人酒かすレシピ』を制作したとき、新潟市中央区にある早福酒食品店会長の早福岩男さんに、新潟清酒の酒粕について取材した。印象的だったのが「酒粕は酒のすっぴん」という言葉だ。
酒は搾ったあとにさまざまな工程(早福さん曰く「化粧」)を経るが、酒粕は何もしない。だから「酒粕を見れば酒のよさもわかる」
酒を搾るときに圧をかけすぎると雑味が出てしまうので、県内の酒蔵では高級酒はもちろんのこと、日常酒も搾りすぎないように仕上げている蔵が多い。だから、清酒のエキスがたっぷり残っている、フルーティーで贅沢な酒粕も多い。
ヤブタと呼ばれる圧搾機で搾ったときにできる「板粕」を見ても、そのよさがわかる。
身近にこんなに素晴らしい酒粕があるなんて、やっぱり新潟県民は恵まれている。
東京でイベントを開催すると、夏でも「酒粕はないの?」とよく聞かれる。東京の人たちは新潟の酒粕のおいしさを知っているのだ。
新潟に暮らす私たちは身近にある新潟清酒の酒粕を、とことん活用せねば。もったいない。
酒粕を使った郷土料理ですぐに思い浮かぶのが、粕汁や粕漬けだろう。
さらに中越地域でよく作られる冬の郷土料理「煮菜(にな)」にも酒粕が使われる。
「うちの郷土料理」(農林水産省)より
「煮菜」とは、体菜などの漬け物の塩を抜き、油で炒めてからだしを加え、打ち豆やみそを入れて仕上げるものだ。最後に酒粕を入れて仕上げる地域(家庭による違いも)と、入れない地域があるが、酒粕好きならば絶対に入れるべし。コクが出てよりおいしくなる。雪国の保存食の知恵が生きた料理だ。
弊社で運営する「本間文庫にいがた食の図書館」(新潟市中央区)には、各地域のお母さんたちがまとめたレシピ本が数多くある。市販されていないので、貴重な資料だ。
その中で、酒粕を使った料理を探してみた。
カンタンで身体が温まり、日本酒にも合いそうな2品を紹介する。
1品目は柏崎地域の郷土料理「大根のしょっから煮」。
『にいがたのおかず』より
材料は塩引き鮭のアラと大根、酒粕、みそ。至ってシンプル。
小さく切り、さっと熱湯をかけてゆがいたアラを鍋に入れ、水を加えて骨が柔らかくなるまで煮る。鬼おろしでおろした大根とみそを加えて、約10分煮たら完成。
鬼おろしを使うのがポイントだとレシピには書かれているが、普通の大根おろしでも十分おいしい。
2つ目は、タラコ好きにおすすめしたい「鱈子汁」。
十日町いろり会が1988年にまとめた冊子「ふるさとの四季の味」で紹介されている。
材料は生タラコと酒粕とだし汁、塩少々。
酒粕は水を加えてすり鉢ですっておき、適当な大きさにカットしたタラコをだしで煮て、煮立ったら酒粕を入れ、塩で味を調えたら出来上がり。
塩の代わりに白だしを使っても、味が決まってよさそうだ。
粕汁よりも粕を感じる一品。スーパーや鮮魚店でタラコ入りのタラの切り身が並んでいたら、ぜひ試してほしい。
2008年に弊社で編集させていただいた『にいがたのおかず』(開港舎)という本のレシピは、新潟県食生活改善推進委員の皆さんが、長年の食育活動の中でまとめたものだ。
県食生活改善推進委員協議会の会長を務める外山迪子(みちこ)さんは三条在住。外山さんが、長岡生まれだったお母さんの影響もあり、昔から作っているという酒粕を使った料理が「べた煮」だ。
昨年、食の図書館開館前にBSN新潟放送の「ゆうナビ」の取材で訪れた坂部友宏アナウンサーから、図書館の本で紹介されている「途絶えそうな郷土料理」を作ってほしいというリクエストを受けて、外山さんのお宅でべた煮を作ってもらった。
こちらが取材時に作っていただいたべた煮。
ちなみに、外山さんは酒粕をこのように常備し、活用していた。こうしておけば使いやすい! さすがだ。
先日、三条市の食推さんの研修会に参加させていただき、べた煮をいただいた。
酒粕をまとったごろごろとした根菜のおいしいこと! 素朴で飽きの来ない、素材のおいしさを堪能できる料理だ。
三条に暮らす方でも知らない人が多いようで、外山さんはさまざまな場で、この酒粕料理を伝えている。
新潟県酒造組合サイトの「さかすけレシピ」でもおなじみの中島有香さんは大阪出身。関西では酒粕はとても身近な存在だが、新潟では「こんなにおいしい酒粕が身近にあるのに、もっと活用しないともったいない」と嘆く(笑)。
『発酵美人酒かすレシピ』では4種類の粕汁の紹介から始まり、漬ける、混ぜる、揚げる、煮る、主食、デザートと、さまざまな料理を提案してもらった。
この本の経験から、形状的に使いにくい酒粕を、他の調味料のように毎日、気軽に使えるようにするにはどうしたらいいのか、考えてもらった。
中島さんが編み出したのが、板粕をキューブ状にカットして包んで冷凍保存しておく「キャラメルストック」と、ペースト状にして瓶に入れて冷蔵保存する「クリームストック」。
酒粕はアルコールを含むため冷凍しても固くならない。
この2種類のストックを使い分けたレシピを『みなとまち新潟発酵美人 酒粕レシピ 1日50g』という本にまとめさせていただいた。
この本のレシピの中で、特に驚いたのが、市販の3個1パックの蒸しやきそばにクリームストックを加えると、中華料理店の焼きそばのような高級感が出ること。
『みなとまち新潟発酵美人』より(キャラメルストック、クリームストック、焼きそば)
レトルトカレーに加えても、高級カレーに変身してしまう。酒粕、おそるべし。
クリームはドレッシングにしたり、キャラメルは揚げたり焼いたり……。
酒粕の可能性は無限大であることを、中島さんの料理から実感した。
最後に、私自身がはまっている、ずぼらな酒粕料理を紹介したい。
冷凍保存しておいた板粕を、カット(手でちぎってもよい)して、魚焼きに並べて少し焦げ目がつくくらいに焼く。
それを野菜の上にのせて、好みのドレッシングやポン酢をかけていただく。サラダだけでなく、さらに細かくしてクルトンの代わりにスープに入れたり、味噌汁に浮かべてもおいしい。
焼くことで外側はこんがり、中はしっとりするので、おいしさも増す。さまざまなドレッシングや調味料との相性を試してみたり、定番料理に加えてみるのもいい。
どの料理も酒粕が加わると、より日本酒に合うというのが、またいい。
撮影:高橋信幸『みなとまち新潟発酵美人』
星野謙一『にいがたのおかず』
「本間文庫にいがた食の図書館」運営
株式会社ニール
高橋真理子