酒器には形、大きさ、材質の違いなどにより、さまざまなものがある。
同じ日本酒でも、酒器が変わると味わいも変化する。酒器選びは日本酒が持つ大きな楽しみの一つといえるだろう。
例えば、香りが高いものは口が外側に向いている酒器やワイングラスなどで、特長である香りを存分に楽しむ。熟成して色がある古酒は、ガラスや内側が白い酒器で色も愛でるなど、酒器選びの法則も多々ある。
とはいえ、酒器も日本酒同様、難しく考えずに好みやその時の気分で自由に選びたいもの。新潟生まれの新潟清酒を味わうなら、酒器も新潟生まれにこだわってみたい。県内各地で制作されている、伝統工芸や作家ものなど、魅力あふれる酒器を紹介する。
これからの季節、特におすすめのガラス器を制作しているのが、新潟市秋葉区の秋葉硝子と、柏崎市の硝子工房 クラフト・ユー。
秋葉硝子代表の照井康一さんが吹きガラスの技法で生み出す酒器は、シンプルな中に温もりを感じる1点もの。代表作である、新潟の秋の田園風景をイメージした「淡黄金(あわこがね)シリーズ」は、微妙な黄金色で稲穂を表現。注ぐと、日本酒にさまざまな表情が加わるから不思議だ。テーブルに映し出される影も美しい。
秋葉硝子の「淡黄金シリーズ」(左3個)と、モールが特徴の「あめ色シリーズ」(右2個)。
硝子工房 クラフト・ユーは、1991年に徳間保則さんが開設し、現在は2代目の徳間純一さんとともに「BOSILICA (ボシリカ)」「越後び~どろ」のブランドを手掛けている。
「越後び~どろ」。耐熱ガラス特有の技法を使っており、見た目の美しさ、シャープな口当たりとともに、電子レンジや食洗機に使える機能性も特長だ。
上・中・下越、佐渡。それぞれの地域に根差す伝統工芸品の酒器にも注目したい。特別な日に使ったり、大切な人へのプレゼントにも最適だ。
写真は燕市、玉川堂の鎚起銅器の酒器
佐渡では、佐渡金山鉱脈近くから採集される稀少な赤土の無名異を使う「無名異焼」が有名だ。現在でも島内には無名異焼を中心に、他の土や石、技法を取り入れた焼き物を制作する窯も含め、約10の窯元がある。
椿屋陶芸館では、島内窯元の約1000点の作品を展示・販売しており、その中には酒器も多い。
佐渡陶芸界の2人の人間国宝、三浦小平二氏と伊藤赤水氏の作品もある。
三浦小平二氏の青磁ぐい呑み(左)と青磁豆彩中国少女ぐい呑み
伊藤赤水氏の無名異窯変酒注(左)と無名異練上線紋酒盃
右の白磁(3点)は三浦常山小平窯の「佐渡物語」。三浦小平二氏他界後、その精神を受け継ぎ、小平二氏が世界を旅したときに描いた絵を白磁にプリントしたもの。中央(片口と冷酒盃)は吹雪文や練込などの技法を取り入れた、相川京町通りにある永柳陶房の無名異焼。下(片口とぐい吞み)は釉薬を一切使わない焼締や霧吹き手法のグラデーションが特徴の風の窯の作品。風の窯は小木宿根木のお宿 花の木の敷地内にある。
お気に入りを探し、旅の土産にしよう。
山形県境の城下町、村上市の伝統工芸といえば村上木彫堆朱。江戸時代に武士の仕事として始まり、藩主が奨励、その後町民にも広まった。木地に彫刻を施し、天然の漆を何回も塗り重ねて仕上げる。
国の伝統的工芸品に指定されている村上木彫堆朱(村上堆朱事業協同組合)
1826(文政9)年創業の「吉川(きっかわ)酒舗」では、木を使わず、漆だけを重ねてつくる「本堆(ほんつい)」を手掛ける漆芸家・小田和生さんの酒器を販売している。
新潟市にも江戸初期からの歴史をもつ新潟漆器が受け継がれている。竹のように見える竹塗など、新潟漆器ならではの技法を酒器で楽しみたい。
江戸時代から燕市で作られてきた、1枚の銅板を打ち延ばしたり絞ったりして形づくる燕鎚起銅器。
1816(文化13)年に創業し、2011年に6代当主の弟である玉川宣夫氏が人間国宝に認定された老舗・玉川堂をはじめ、ともに玉川堂で修業後独立した島倉堂、富貴堂で、それぞれの個性を生かした燕鎚起銅器の酒器を制作、販売している。
玉川堂の多彩な酒器。制作現場の見学も可能だ(5名以上要予約、日曜・祝日等工場休業日は休み)。
柏崎市には江戸時代末期から続く蝋型鋳物(ろうがたいもの)の伝統の技を継承する原惣右エ門工房がある。変形寸前まで焼くことで、滑らかな表面に現れる斑紋が特徴。
原惣右エ門工房の斑紫同片口と酒器など。近年は海外からも高い評価を得ており、海外のデザイナーとのコラボによる酒器も制作している。
県内各地で、その地の風土を大切に作陶している作家たちの個性あふれる酒器にも注目したい。
県北村上市には陶房やまや(鈴木和弘氏)、Toi工房(フジタヨウコ氏)、羊工房(高橋喬士氏)などがある。
籾殻の燻炭を主材料としたぬか釉を使ったぬか白が代表作の陶房やまやの酒器。
左側3点(ぐいのみと徳利)はToi工房の土の表情が伝わる作品。右側7点は羊工房の作品で、右側の青色の酒器は星空をイメージした銀河天目釉。
新潟市中央区の沼垂テラス商店街の中に2012年に陶磁器工房を開いたのが青人窯(大山育男氏)。陶芸体験や陶芸教室も開催している(要予約)。
青人窯の作品。秋葉区で栽培する柿の木の灰を使った柿灰釉のグラスなどもある。
南魚沼市の旧六日町には大月窯(今成修氏)が、旧塩沢町にはアグニ工房(井口英一氏)がある。土の素朴さを手触りや口触りで感じることができる。
今成氏は益子焼の陶芸家で人間国宝の故浜田庄司氏に学んだ後に大月窯を開いた。少人数制の陶芸体験教室も開催している(要予約)。
備前焼を学んだ井口氏が2001年に開窯したアグニ工房。穴窯による焼締焼成も手がける。
柏崎市には1989年に開窯した朴石土房(佐藤弘和氏)、94年に工房を開き2014年に手作りの穴窯を造った明城焼 恒炎窯(片桐恒友氏)などがある。
写真左は自然釉薬を使い、色の変化に個性を表現する朴石土房の作品。右はワラ釉を使った明城焼 恒炎窯の作品。
妙高市には越後焼 妙高赤倉窯(栗山像心氏)や、池の平温泉の宿で展示・販売している須弥山焼き(故氷熊信旡氏)などがある。
地元の土の魅力と登り窯による風合いを生かした越後焼 妙高赤倉窯の酒器。
陶芸の宿エペレの先代の手による須弥山焼き。宿で展示販売している。
JR越後湯沢駅、長岡駅、新潟駅構内に出店するぽんしゅ館では、バイヤーが実際に足を運んで見つけた、県内各地の工芸品や作家ものの酒器を各店で販売している。
さらに、新潟県内の匠の技が生んだ商品を販売するぽんしゅ館新潟驛店のぽんしゅ館クラフトマンシップでは、県内全域の選りすぐりの酒器を販売。酒器コーナーを見ているだけで、県内を旅している気分になる。
クラフトマンシップに隣接するtabibarでは、これらの酒器で、季節限定や数量限定などのプレミアムな地酒を味わうことができる。
酒器と地酒、2つのストーリーとともに、新潟の酒に浸ってほしい。
写真協力/高橋朋子、高橋信幸、内藤雅子、中田洋介、硝子工房クラフト・ユー、玉川堂
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高橋真理子