新潟県内各地の酒旅を楽しみ、リアルな酒旅プランの参考にしていただくシリーズ。
今回は県北の村上市と新発田市の酒蔵を特集。
村上市には2つ、新発田市には4つの酒蔵がある。
城下町の歴史と初夏の日本海を堪能しながら、酒旅を楽しもう。
山形県境に位置する村上市の市街地は、村上城が築かれた通称「お城山」に抱かれ、鮭が遡上する三面川、そして瀬波温泉が湧く瀬波海岸にも近い自然に恵まれた城下町だ。
大洋酒造は、戦後14の酒蔵が合併し、1920(昭和20)年に誕生した。合併前の酒蔵の中には、江戸時代創業の蔵もあるという。
現在、製造工場(鳳麟蔵)の見学はできないが、観光蔵として整備された和水蔵(なごみぐら)の見学は予約なしで楽しめる。予約をすれば旧仕込み蔵の見学も可能だ。
和水蔵では貴重な酒造り道具や、合併前の蔵元の各家に残る調度品などが展示されている。春に開催される「町屋の人形さま巡り」や、秋に開催される「城下町村上 町屋の屏風まつり」にも参加している。
和水蔵ではさまざまな種類の清酒やリキュール、漬け物や酒粕、オリジナルグッズなども販売。ここでしか買えない「蔵出し原酒」は土産におすすめだ。
和水蔵の営業時間などはサイトでチェックしよう。
大洋酒造の初夏のおすすめは「純米吟醸 大洋盛 スカイブルーラベル」。
見た目も涼やかなこのお酒は、希少な地元産の酒米たかね錦を55%まで削り、リンゴ酸を出す酵母による、フルーティーな香りと甘酸っぱさが特徴。
アルコール度数13%の低アルコールなので、ビギナーにもおすすめだ。
もう一つの酒蔵、宮尾酒造は三面川の支流の門前川沿いにある。
酒造りの見学はできないが、蔵の入り口から仕込みタンクが並ぶ様子を見ながら、宮尾酒造の酒造りについて、話を聞くことは可能だ。
事前予約は不要で、日曜は休み。土曜と祝日は営業している。商品の販売もしているので、町屋を巡りながら、足を延ばして立ち寄ってみたい。
宮尾酒造の夏酒といえば、「〆張鶴 吟醸生貯蔵酒」。生のままで低温貯蔵することで、フレッシュな味わいや香りを保ちつつ、うま味があり、後味はすっきり。毎年楽しみにしているファンも多い夏限定酒だ。300mlサイズがあるのもうれしい。
村上を訪ねたら味わいたいのが、鮭料理!
写真は200年もの歴史を誇る、塩引き鮭加工の越後村上うおやの直営レストラン海鮮一鰭(かいせんいちびれ)の「うおや塩引御膳」。
市内の割烹や、鮭加工品店直営のレストランなどで、通年、塩引き鮭やはらこ丼などを提供している。三面川に鮭が遡上する11月下旬ころからは、多彩な鮭料理が登場し、コースで味わえる割烹もある。
地酒を用意している店も多いので、電車旅や、車旅でも運転をしない人は、地酒と鮭料理のペアリングも楽しんでほしい。
村上市観光協会では2022年9月末まで村上市全域の約30店舗が参加する「村上どんぶり合戦」を開催している。参加店をチェックしてみよう。
毎月2と7がつく日には、歴史ある朝市、六斎市が開催される。
海の幸、山の幸、畑の幸、手づくりの加工品や花など、定期市ならではの商品が並ぶ。買い物を通した地元の人とのふれあいもまた、旅の醍醐味だ。
村上市街には2つの蔵の地酒を扱う酒屋が点在している。店主と酒談義を楽しみながら、お気に入りを選ぼう。
町屋造りの建物が並ぶ越後村上町屋通り沿いにある、物見櫓がシンボルの田村酒店。創業は1914(大正3)年。
「〆張鶴」と「大洋盛」の定番から季節限定酒までが所狭しと並ぶ。地元限定販売のお酒もあるので尋ねてみよう。
城下町の地酒スポットを堪能したら、名勝・笹川流れまで足を延ばしたい。透明度の高い青い海と、変化に富んだ海岸風景が約11㎞に渡って続く。日本海に浮かぶ粟島の姿も眼に焼き付けよう。
桜の名所として知られる新発田城がシンボルの城下町・新発田市には、王紋酒造(2022年2月に市島酒造から改名)、金升酒造、菊水酒造、ふじの井酒造の4つの酒蔵がある。すべて酒蔵名が代表銘柄だ。
新発田駅から徒歩圏内の場所にあるのが王紋酒造と金升酒造。
王紋酒造へは新発田駅から徒歩約5分。
近くには新発田城主溝口家の下屋敷として造られた清水園や足軽長屋がある。写真は足軽長屋。
代表銘柄の「王紋 純米旨口 エンブレム」。
王紋酒造の創業は寛政年間(1790年代)で、代表銘柄の「王紋」のほか、創業者の名をとった「秀松」、「夢」、若者向けの甘みがありアルコール度数の低い「かれん」シリーズも展開している。
「王紋 大吟醸 極辛19」。ロックやソーダ割りなど、日本酒の新しい可能性を楽しむことができる大吟醸の原酒。
2022年4月29日には体感型酒蔵リゾート 五階菱(ごかいびし)がオープン。王紋酒造の地酒とともに、市内外の地酒や下越地域の特産品などを販売する。
酒蔵見学などの情報はサイトでチェックしよう。
金升酒造へは、新発田駅から徒歩10数分。
1822(文政5)年創業。自社で栽培する地元産の酒米と、飯豊(いいで)山系の清冽な水を使い、清酒を仕込んでいる。
清酒とともに、酒米を使った米焼酎造りにも力を入れる。米焼酎「かねます」と、樫樽で長期熟成させた「かねます 樫樽貯蔵」の2種類がある。
「金升 朱(あか)」は、原料の醸造アルコールも、自社で製造する米焼酎を使った柱焼酎仕込みの日本酒。オール自社産が売りだ。
現在は公開は中止しているが、美しい庭園や歴史ある建物を生かしたカフェもある。再び公開される日が待ち遠しい。
新発田市の市街地には、地酒と地の食を楽しめるすし店や居酒屋、食事処もある。
かつて『新潟発R』のすし特集で紹介した鮨 登喜和は地元で愛される名店の一つ。
『新潟発R』2017秋冬・5号「新潟のすし屋で、いつかは行きつけ」。おまかせ握りやコースとともに、地酒を楽しんでみたい。
新発田といえばアスパラガス! 太くて、甘くて、やわらかい、県内一の出荷量を誇る特産品だ。
2022年5月1日から31日まで、市内約50店舗でアスパラガスを使った料理やスイーツが楽しめる「食のアスパラ横丁味めぐり with新発田牛(しばたうし)」が開催される。産地で、フレッシュな味わいと、新発田産米の稲わらを食べて育った新発田牛のおいしさを体感したい。
「ふなぐち菊水一番しぼり」が全国的に知られる菊水酒造は、新発田駅から車で約10分。国道7号沿いの加治川近くにある。加治川も昔から桜の名所として親しまれている。
創業は1881(明治14)年。新発田市の南北に開ける北越後の風土を生かした酒造りに取り組む。
貴重な酒造道具や、酒を楽しむ器などの展示や図書コーナーと酒蔵(節五郎蔵)を備えた菊水日本酒文化研究所は、2018年から一般にも公開している(庭園見学とともに要予約)。
敷地内のショップでは、自社の地酒とともに、北越後の特産品や酒器など、蔵元が選ぶこだわりの商品が並び、見ているだけでわくわくしてくる。
2022年秋、「ふなぐち菊水一番しぼり」が誕生して50年を迎える。現在、50周年記念企画としてポイントキャンペーンを実施している(2022年8月31日まで)。
累計3億本を突破しているという人気商品の開発秘話を、以前『新潟発R』でも特集した。
『新潟発R』2019春・9号「にいがたSAKE革命」。ロングセラーが誕生し、ヒットするまでの物語を、お酒とともに味わってほしい。
最後に紹介するのは、酒蔵のすぐ裏に藤塚浜海水浴場があるふじの井酒造。
創業は1886(明治19)年。
この地に古くから伝わる「不二の井戸」で仕込んだ酒は発酵が旺盛でおいしくなることから、「ふじの井」の銘柄が生まれたといわれる。
「ふじの井 純米吟醸 純」は蔵を代表する1本。まろやかな舌触りと、口の中で広がる旨味が特徴。
酒蔵の近くには新潟県立紫雲寺記念公園があり、近年はバーベキュー場が大人気だ。さえずりの里でバードウォッチングを楽しむ人も多いという。
さらに、藤塚浜海水浴場の隣には新発田市唯一の漁港・松塚漁港がある。
加工直売所の新鮮おさかな市場では、漁師自らが加工する魚介加工品も販売している。4月から10月の土・日曜に営業しているので、立ち寄ってみたい。
2つの城下町で愛される、地元の人たちの笑顔を運ぶ6つの地酒。
歴史と風土に寄り添う6つの酒蔵物語を堪能する酒旅へ、出かけてみよう。
写真協力/高橋朋子、渡邊久男、新潟県観光協会、新潟県立紫雲寺記念公園、大洋酒造、宮尾酒造、王紋酒造、金升酒造、菊水酒造
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