吟醸酒、純米酒、本醸造……、やっと覚えたと思ったら、生酛? 山廃? なんですか、それ?
嬉しいことに日本酒ファンが増えている。海外からのお客様も日本食はもちろん、「日本酒を飲んでみたい」、「どこで飲めるのか」、——それより「日本酒ってどんなお酒なの?」と、素朴な疑問を抱えて来日する人も少なくない「自分の好みのお酒ってあるんだろうか」。
けれど、日本人だって、日本酒に縁のなかった人なら同じこと。
よく聞くのは、「飲みやすい日本酒ください」——。そんなに飲みにくい印象でしたか?
例えば、苦味や酸味のある日本酒は、一昔前なら敬遠される方もいたが、そう聞いたら驚く人も多いくらい、現代の日本酒は、味のバリエーションを楽しむ方が増えている。
もう一つ、必ず聞こえてくるのは、今でも「辛口のお酒、ください」。
とてもその一言で選べるような世界ではなくなっているのです。
日本酒の要素は、一言で言うと米と水、そして、米から作った麹。たったこれだけの素材を、微生物の力を借りて様々な味に変化させる、ミラクルなアルコール飲料。それなのに、水のようにすうっと飲める軽いものから、ワインで言えばフルボディのようにどっしりコクのあるものから、軽やかでさらっと飲めるライトなものまである。このレンジの幅は素材がシンプルなればこそ。
では、どうやったら、自分好みのお酒に出合えるか。気になるのはそこだ。
日本酒造組合中央会のホームページに行くと、お酒のタイプを「香りの高いタイプ」「軽快でなめらかなタイプ」「コクのあるタイプ」「熟成タイプ」4つに分けている。それぞれを4つに分けて、「薫酒」「爽酒」「醇酒」「塾酒」と呼ぶところもある。
自分の好みは……と考えてみる。初心者だからと言って、コクのある酒はハードルが高い、とは言い切れない。日頃の食事や、飲んでいるお酒を思い返してみると見えてくる。そして、現代の食生活では、むしろ、ガツンとパンチのある日本酒が合うことだって、とさえ思える。
とはいえ、先のように、「飲みやすい」「辛口」の声は未だ高く、無視はできない状況。
それでは、と、見渡すと、さらによく耳にする「淡麗辛口」があるではないですか。
すっきりとした飲み口とキレのよい後味。いかにも料理に合いそうであり、安心して勧められる。一時は、何でもかんでも「淡麗辛口」の一大ブームを巻き起こしたお酒だ。
この代名詞で語られる日本酒王国、新潟の酒蔵は、ほぼ口を揃えて、「食事の傍らにあって、飲み飽きしない食中酒」と自らの酒を、または造りたいお酒を語る。
これは、新潟県酒造組合はもとより、醸造技術を教える新潟清酒学校や、醸造専門に研究と指導を行っている新潟県醸造試験場などが、食事とともに楽しめる日本酒づくりを奨励し指導しているから。見事な徹底ぶり。こういった支援体制があればこそ、変わらぬ味を続けてこられたのだろう。
90蔵も加盟している巨大な県の酒造組合が、まとまりよく美味しいお酒を造り続けている陰には、充実した教育機関あり。共に学んだ仲間の絆は強いから。とはいえ、90蔵もある酒蔵が、おとなしく揃って「淡麗辛口」を貫いているかというと、そんなわけはない。
「うちは晩酌にも人気の辛口」もあれば、「うちはずっと山廃だから、しっかりしたコクがウリ」。果ては、「上越は昔っから甘口なんですよ」……。——話が違う………。
でも、それは当り前のこと。新潟県が日本海沿いに細長いことは知っていても、長辺の距離が300kmもあることを知っている人は多くはないかもしれない。隣は山形、昔は会津藩、山を越えれば長野。県境近くであれば、新潟市は遠い。それはつまり、同じ県内でも、その背景はこれほど多種多様。それぞれがちょっとずつ異なる文化を持ち、異なる食習慣で日々を暮らし、その食事に合うようなお酒を生み出し、夕食の傍に置く。だから、約1,000種類以上を醸す90軒の酒蔵がずっとお酒を、地酒を造り続けられている、ということ
好みのお酒を見つけるなら、まずは試飲イベントに足を運んでみるのがお勧め。
何人かで行って、それぞれ調達したら集まって、仕入れた情報を伝えながら持ってきたお酒を披露する。感想を言いながら、それぞれが持ってきたお酒をちょっと味見してみる。相手を気にせず、まわし飲みするなんて、日本酒くらいのこと。お互いにお酒を注ぎあったり、ひとつの盃で回し飲みしたり、日本独特の、人と人を近づける魔法の習慣なのだ。
この時、仲間に自分が選んだお酒を勧めるから、ワイワイ意見を言い合いながら飲んでみるから、強く記憶に残る、記憶を共有できる。誰かの一言が記憶に残り、味まで思い出せるものだ。「あの、美味しかったお酒、なんだったっけ?」きっと仲間が覚えてくれているはず。
加えて、蔵元さんたちと直接話せる、酒造りの思いの丈を聞いてみることができるのは、大きなチャンス。そして、次へのステップ、酒蔵見学への第1歩になるかもしれない。
嬉しいことに、昨今は、年間を通して、日本酒イベントが真っ盛り。平日、週末を問わず、毎日、数本〜数十本のイベントが組まれている。
中でも新潟県の「にいがた酒の陣」が、規模、内容、集客力、などなど、あらゆる面を比べても、トップのイベント。巨大で、たまらなく魅力的だ。約90蔵もある新潟県の蔵元のほとんどが一堂に会する会場の景色は圧巻の一言。各蔵の蔵元ブースももちろん本物の蔵人のため、味わいはもちろん、蔵の文化や歴史も含めて会話とともにお酒を楽しめるイベントのため、日本全国、海外からも日本酒を求めて新潟市に集まってくる。
「にいがた酒の陣」は、毎年3月に新潟市内の朱鷺メッセで行われるが、開催日には、たくさんの来場者で賑わう、2日間で13万人を集める巨大イベントだ。
多種多様な約500種類もの清酒が揃う試飲イベントため、誰しもたくさん好きなお酒と出合うことになる。また、蔵ごとの試飲ブースでは、蔵元の看板にあるQRコードをスマートフォンで読み込むことで、蔵元の歴史や文化、味わいの特徴などのストーリーを読みながらほろ酔い気分で楽しめるイベントだ。
毎年行ってるよ、という人も、改めてMY日本酒を見つけるために出かけてみてはいかがだろうか。試飲ブースでお酒を注いでくれる蔵元さんと話しながら好きな日本酒を見つけてみるのもいい。きっと素敵なMY日本酒を見つけられるはずだ。
※2020年3月、2021年3月の「にいがた酒の陣」は新型コロナウィルス感染症の影響によって開催中止となりました。
取材・文 / 伝農浩子