越後杜氏の故郷で元禄からの歴史を守る『頚城酒造』 地元と連携した農業プロジェクトも
頚城酒造

頚城酒造KUBIKI shuzo

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PICK UP 2024

真の柿崎地酒となる、感動の食中酒造りを目指します。

造り酒屋として農家の人にスポットを当てることが自分の役割であると思っています。

新潟県は上越、中越、下越、佐渡と大きく4つの地域に分けられる。頚城酒造は上越地域の柿崎にある。創業は1697年、江戸時代、元禄の世に八木酒造として歴史が始まった。

酒造りの要は農業にあり

お米蒸しあがる柔かい香り。柿崎産のうまし米が酒の要。

「柿崎は日本三大薬師のひとつ霊峰、米山の麓にあり、海と山に囲まれた自然豊かな地。越後杜氏の中でも有名な頚城杜氏の故郷として知られ、多くの名杜氏を輩出している酒造りの里です」
と語るのは、八木酒造時代から数えて十八代目、頚城酒造として三代目の蔵元、八木崇博さん。
越後杜氏は日本の杜氏集団のひとつで、中でも越後三大杜氏として頚城杜氏の酒造りの技術は、類まれな研ぎ澄まされた感性があると尊敬されてきた。
その頚城杜氏の本家本元であるということもあり、頚城酒造は国内外の日本酒ファンから注目されている。こちらの特徴といえば米作り=酒造りという姿勢だろう。
酒米は全て地元の契約栽培米を使用。その中には新潟では珍しい八反錦も。
「酒造りというと蔵元や杜氏が主役に思われがちですが、実は原料米である酒米は最も大事な要素のひとつ。酒は米と水からできます。その酒米を作ってくれる農家さんは酒造りにおいて必要不可欠な存在です」

全量を地元産米へ

生産者の顔がラベルとなった季節限定酒。「蔵元でも杜氏でもない、原料米生産者の顔がラベルになるというのはやりがいも上がるだろうし、誇りにもなるはず」(八木社長)。

米を知る者が酒を造る。かつての季節雇用の杜氏集団はそうだった。時代的にその制度が厳しくなった現代。しかし頚城酒造には農家兼蔵人が幾人もいる。
「酒米生産者が蔵人だと、使う米の性格や性質もしっかりと見分けられる。裏を返せば酒を造るにはどういう米がいいのかがわかっている。入蔵時に原料米を見て、各々の酒米の出来具合を見極める。
みんなプロでプライドもあるので切磋琢磨ですよね。これは酒造りにとって非常にいい環境です。だっていい酒を作りたいじゃないですか」
現在蔵で使う酒造好適米は、全量柿崎産の契約栽培米とのこと。あとは、どの田んぼで作った米がどのお酒になっているのか、お客様に伝えるだけという。
「田んぼを見たらお酒の銘柄が出てくるという世界って、面白いと思いません?」と、微笑む。

地元をよく知り未来を応援

じつは今、「柿崎がおもしろい!」とUターン、Iターン者率が多いのだという。
「柿崎って映画館もデパートもゲームセンターもない。商店街も寂れてきている。都会の便利さに慣れていると閉塞的に感じるかもしれない。でも柿崎には海も山も川も里もある。私も東京より戻った時は生活しにくいとよく思っていたものです。
でも月日が過ぎ、地元の農家の方々と関わりが密になるにつれ、柿崎の豊かさがわかった。天然の水に土壌、気候風土は非常に恵まれた贅沢な場所なのだと。この環境の良さを地元、そして子供達に知ってもらいたいと思ったのも事実です」

名水農醸プロジェクトが発足

「柿崎は何もないけど何でもある」。柿崎名水農醸プロジェクトメンバーのキャッチコピーは言い得て妙。「贅沢な自然の恵みで私たちは生かしてもらっている。そのありがたさを後世にきちんと伝えるのも私たちの役目」(八木社長)。

柿崎の魅力を発信する一環として「柿崎名水農醸プロジェクト」が2012年に発足。「柿崎を食べる会」と協働し、柿崎の土壌、水、育てた酒米を使った『和希水』という商品が生まれた。
酒米の田植えも、プロジェクトメンバーを中心に志に共感してもらった酒販店や飲食店の方々が手伝ってくれます。この活動を始めて8年。最近は地元の子供たちも参加するようになり、土いじりの楽しさやご飯はどうやってできるのかを知ってもらえるように。
泥んこになりながら目をキラキラさせる子供たちを見ると、柿崎の未来が少し明るく感じるのです。やはり地元を好きになってもらわないと、故郷がなくなってしまうでしょう。
次世代の子供が都会に憧れるのもいい。でも故郷も魅力いっぱいなのだということを覚えてもらうこと。これも地元の造り酒屋としての役目のひとつだと。
そして将来、自分たちが育んだ田んぼで育った酒米で造った酒を飲んでもらって、『うまい!』といってもらいたい。それが夢ですね」

平成29酒造年度から40代の新杜氏に

蔵人は30代から70代まで総勢7名。今季より地元の女性も酒造りがしたいと入蔵した。「若い人が興味を持ってくれる。柿崎だからこその地酒をこれからも精進して造っていきたい」(八木社長)。

今季の酒造りから、杜氏が交替し、40代の吉崎さんが新たに杜氏として指揮を振るうことになる。
「新杜氏となる吉崎は入社時から杜氏となるべく、山田前杜氏に託した。前杜氏はそれに応えて技や心構えなど頚城杜氏として持てるものすべてを彼に伝えてくれた。酒造りの世界で杜氏は神格化され、蔵人にとって気を使う存在。
ただうちの場合は、蔵人もほぼ、吉崎よりも経験が長い。杜氏制度ですから、杜氏である彼がリーダーシップを持ち、全責任を取る。けれど、まだ若い吉崎はみんなの手助けがないといい酒が造れないんです。
ですからうちの現状は、トップダウンのピラミッド型ではなく、チームワークを重視しフラットな関係の酒造りです。吉崎杜氏も、みんなと一緒という心構えで頑張っています」
伝統の頚城杜氏の技を受け継ぐ頚城酒造。柿崎の地で作る米の意味から理解する蔵が醸す酒は、地酒とは何か、故郷とは何かという強いメッセージが込められている。
蔵元が勧めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 金関亜紀