2020・2021・2022全国燗酒コンテストお値打ちぬる燗部門にて、黒松が3年連続最高金賞を受賞致しました。
中川酒造がある長岡市脇野町は、かつては三島郡三島町と呼ばれた地。農業、林業の一次産業とともに刃物産業、酒造業も盛んだった。いずれも大量の水を必要とする産業である。
三島の地は水の質、量、ともに恵まれています。酒蔵は今は3軒ですが、少し前までは周辺も含めて5軒もありました。
長岡は今も新潟県最多の酒蔵数を誇る土地柄だが、中でも脇野町は異例。3軒に減少したとはいえ、この町の人口が7000人ほどであることを考えれば、驚きの数だ。
この地域に酒造りに適した良質の水が、豊富にあったことの証であろう。 ところで、酒造りにとっての良質な水とは、どんな水なのか。
まずは麹菌や酵母などの微生物が、活発に活動するためのカリウム、リン酸、マグネシウムが含まれていること。次に麹から酵素が溶け出すのを助け、酵素の働きを促進して発酵を助けるカルシウムなどが含まれること。
そして酒の着色の原因や香味の劣化を招く鉄やマンガンが少ないこと。さらに新潟清酒の特長である淡麗な飲み口にするには、適度な軟水であることが必要とされる。
中川酒造は県道から1本山側の閑静な道路に面して蔵が建っている。裏手には急峻な山の斜面が迫り、その環境はいかにも山からの水が豊富であることをうかがわせる。
実際、この西山丘陵由来の水は地下10mから汲み上げられ、柔らかな井戸水は主要銘柄『越乃白雁』の仕込み水となっている。
「県道の下は湿地帯です。この沼には昔から白い雁が飛来していました。それが銘柄の名の由来です」
銘柄も酒質もこの地に湧く良水がもたらしたものであることを知った。
創業は1888年、大火によって焼失した酒蔵から酒造株を買い受けて、酒造りが始まったという。
建物は「明治蔵」「大正蔵」「昭和蔵」と増築が繰り返され、迷路のような蔵内は酒造りの歴史と伝統を物語る。 この蔵の中で、貯水タンクを満たしているのは西山丘陵からの湧き水だ。
内側が白いホーロータンクの中は、なんとも神秘的な青い色をしている。中川酒造には『越乃碧(あおい)』という銘柄があるが、その味わいを彷彿と思い浮かばせる澄んだブルーだ。
もちろん、全ての酒はこの水で醸される。青く見える水の秘密は解明されているそうだが、美酒の源はあえて謎めいたままにしたい。 酒蔵にとって水は大事な財産。
「新潟らしいきれいな酒、が基本です。飲み飽きしない、淡麗辛口よりやや味があるタイプです。この水あっての『越乃白雁』といえます」
もうひとつの財産はコメである。ここはかつて天領地であり、献上米を作っていたという土地柄。良質なコメが獲れることはいうまでもない。
『越乃白雁』には、優雅で繊細な香りの大吟醸、華やかな香りと淡麗な味わいの純米吟醸、なめらかな中にもコクのある純米コシヒカリ、そして飲み飽きしない澄んだ味わいの『越の白雁 黒松』、柔らかくきれいな飲み口の本醸造などがある。
これらはどれも、贅沢なまでにコメを磨きに磨いて造られている。全量60%以上の精米歩合。日々飲む酒の美味しさを大事にしている。
中でも圧巻は『越乃白雁 黒松』。蔵人たちも愛飲している晩酌酒だそうで、普通酒ながら精米歩合は60%。柔らかくてやや辛口タイプ、スッキリして飲み飽きしない。
2020・2021 全国燗酒コンテストぬる燗部門にて2年連続で最高金賞を受賞した。
経営方針については「地元に愛される酒造り」だという。
本醸造系が主体で、出荷先は県内が80%。ほとんどが地元で消費されてしまうというが、それも納得の酒造りだ。
それではここで中川酒造お勧めの商品を紹介しよう。
新潟県産酒造好適米の越淡麗を100%使用。精米歩合45%まで磨き、厳寒期に丹精込めて仕込んだ純米大吟醸酒。香りは華やかすぎない落ち着いた吟醸香、淡麗ながら口内でふくらむ上品な味わいが魅力の旨口タイプ。
香りと味わいのほどよい調和が楽しめる。少し冷やして飲むのがお勧め。
くせのないスッキリとした口当たりの中に、純米ならではのふくらみのある味わいを持たせた辛口タイプ。喉越しに甘みさえ感じるバランスの良い純米酒で、燗をすると甘さがスーッと消え杯が進む。
原料に新潟県産五百万石を使用。毎年行われている関東信越国税局の酒類鑑評会において、純米酒部門で優秀賞を受賞した。素晴らしくバランスのとれた豊かな味わいを楽しめる。
新潟県産米100%で醸した、淡麗でやや辛口タイプのお酒。ぬる燗、または冷やで飲むのがお勧め。スローフードジャパン主催の燗酒コンテスト2015にて、お値打ち燗酒ぬる燗部門で金賞を受賞した。
取材/伝農浩子・文/八田信江