2015年に発売した『K』シリーズに新しい商品『K 14%原酒』が誕生しました。県内限定だったこのブランドも、全国展開できるようになりましたので、応援お願いします。
四季折々に美しく趣を変える頸城連峰に見守られて、銘酒『千代の光』は育まれてきた。ここは夏は涼しいが、冬ともなれば日本有数の豪雪地だ。
「藏が雪で覆われる最高の環境で酒造りができます。ただし道路の雪かきは容易じゃありません。作業用のフォークリフトで除雪しています」と、代表取締役の7代目当主・池田哲郎さんはご当地事情を披露する。
「日本海に近いから湿った雪が降り、屋根への加重は相当なもの。でもかまくら状態になるので、蔵の中は気温が一定で酒造りには最高の条件です」と、池田社長の舌はなめらか。
蔵があるのは妙高市。JR信越本線の新井駅より車で10分ほどの山あいに建っている。江戸時代末期の万延元年に創業した。近くを清流・矢代川が流れ、その伏流水が仕込み水となる。
「江戸時代から枯れたことのない井戸水源は、裏の大毛無山(おおけなしやま)の豪雪の賜物です」と、ここでも社長は雪への感謝を忘れない。
こうした恵まれた自然環境のほかに、名酒となる要因はもう一つある。酒造米へのこだわりだ。
「会社の周りの田んぼで越淡麗を作って、そのコメで酒造りをするのが理想なんです。ワイナリーがブドウ畑に囲まれてあるように」
池田社長は日本酒蔵のドメーヌ化を夢に描いていた。かつては欲しい品種のコメがどんどん入手困難になり、自社栽培を試みたという。
「でもコメはコメ作りのプロに頼むほうがいいんですよ。このあたりは魚沼と同じレベルのコメができるんです。いい品質のコメが使えるのはありがたいことです」
池田社長は地元吉川区の栽培家と契約して山田錦も育てている。その田んぼに適した農法でてきたコメは、独自の風合いの酒になるという。
千代の光酒造には2015年、新ブランドが誕生した。銘柄名は『KENICHIRO』で通称『K』シリーズ、斬新なラベル文字が目を引く。 手がけるのは池田社長の長男で、8代目を継ぐべく修業中の常務取締役・池田剣一郞さんだ。
大学卒業後、東京でサラリーマン生活をしていたが、2011年、実家に戻ってきた。そして現場に入り酒造りに没頭する中から、「自分のお酒を造りたい」という思いがふつふつと芽生えたという。
蔵の基本路線であるやや甘口を守りつつ、新しい味わいを開拓したいと獅子奮迅。かくして契約栽培した五百万石を50%まで磨いて仕込んだ『純米吟醸KENICHIRO』が誕生し、「越後謙信SAKEまつり」でのデビューとなった。
以来、毎年ブラッシュアップを重ねている。使用米を五百万石から越淡麗に変えた『K 壱度火入れ』、遠心分離機を使って搾った『K 遠心分離 にごり酒 瓶火入れ』。
仕込みの麹使用率を3割に上げて甘みと酸味を表現した『K 三割麹』、2017年秋には『K 14%原酒』と、次々に新しい試みにチャレンジしている。
次期蔵元としての研鑽にも意欲的で、2017年に東京で開催された新潟マッドマックス「EGGs-新潟 若き蔵元の挑戦-」にも参加。新潟の若手蔵元が何を考え、どんな酒を造っているのかを披露した。
豪雪地帯ならではの環境を生かした製品もある。 例えば『千代の光 越淡麗 雪室熟成酒』。越淡麗を使い、手塩にかけて醸し上げた原酒を雪室で熟成させたもの。爽やかなさらりとした口当たりながら、深い味わい。
雪室貯蔵では『千代の光 遠心にごり 雪中貯蔵酒』もある。こちらは、五百万石をじっくり発酵させた生酒で、上槽には遠心分離機を使用。
また、遠心分離機使用の『千代の光 淡月』は、薄にごりで柔らかい味わい。遠心力を利用して酒粕と酒に分離するという上槽システムを10年以上も前にスタートさせて、『淡月』シリーズを中心に使用してきた。
遠心分離機は、ステンレス製なので酒袋の匂いが酒に移る心配がない。また密閉空間で上槽されるため、酒本来の香りを保持できる利点があるといわれる。 遠心力で分離された微粒子が漂い、口当たりのまろやかさが楽しめる。
その他にも、この蔵ならではのこだわりの酒のひとつが、『もち純米』。新潟産のもち米・こがねもちを使った純米酒で、ふくよかで豊かな甘みがあり、まろやかな飲み心地。しかし、もち米は粘りが強いので製造は困難。
もち米の王様といわれる高価なこがねもちを使い、しかも麹米は山田錦というからとても贅沢なお酒だ。
以下は蔵元お勧めのお酒。
やや甘口が主流の千代の光酒造だが、これはキリッと引き締まったやや辛口タイプ。穏やかな飲み心地でキレのある味わいが心地いい。
原料米は五百万石と美山錦。飲み疲れしない清涼感は常温か冷酒で引き立つが、温めてもふわりとして美味しい。
本醸造だが大吟醸クラスによく使われる山田錦を使用。この米は、平成元年より契約している農家によって、地元吉川区の山間中腹で作られているものだ。
やや辛口仕立てながら、ほのかに感じられる甘さが喉元を爽やかに通り抜け、快い酸としっかりした味わいは絶妙。
精米歩合50%の五百万石を使用。この米を使うと一般的にキレのいいシャープな酒になるが、がっちりとした味のある酒を目指して、麹の使用比率を通常の2割から3割に上げることを着想。
結果、芳醇で豊かな甘み、力強い酸のある酒質を実現した。
取材/伝農浩子・文/八田信江