淡麗辛口文化の新潟にあって「全量純米蔵」へ舵を切った理由 雪椿酒造に聞いた
雪椿酒造

雪椿酒造YUKITSUBAKI shuzo

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越後の小京都、加茂市の雪椿酒造。その名の通りユキツバキから見つけた酵母も。

雪椿酒造が蔵を構える加茂市は、「越後の小京都」と呼ばれている。市街地は三方を山に囲まれ、そのひとつ加茂山はユキツバキの自然群生地。
東北から北陸の日本海側に分布する珍しい品種で、新潟県の木、そして加茂市の花にも指定されている。

ユキツバキの鮮烈なイメージを酒銘に

日本海側の多雪地帯に分布し雪解けを待って咲くユキツバキ(KVBPhotos/iStock/Thinkstock)

雪国・新潟の厳冬に耐え、雪解けとともに咲く深紅のユキツバキ。この鮮烈なイメージを酒銘に冠した『越乃雪椿』は、雪椿酒造で醸される。
1806年に丸若酒造として創業。1987年に主要銘柄から雪椿酒造へと改名したが、創業以来伝承してきた丁寧な手間暇かけた手造りを今も踏襲。新たな出発をした雪椿酒造は、独自路線を進むことになる。

2011年、仕込みの全量を純米に舵切り

この蔵では現在タンクの中身は全てが純米酒

その最たるトピックは、日本酒王国新潟にあっても異色の「全量純米蔵」宣言だろう。 仕込みの全量を純米にと舵を切ったのは2011年。純米酒は米の特質がストレートに表現され、個性の出やすい酒といわれる。
従来、県内の清酒出荷状況は多くが普通酒や本醸造酒。「新潟の酒=淡麗辛口」の認識が圧倒的多数のなかで、方向転換をした背景には何があったのか。
2011年当時、雪椿酒造では純米酒の出荷が全体の8割と純米比率が大きく、日本一の酒どころ新潟で特徴を出すためには、この特質を生かすことに活路を見出す。
醸造アルコールを添加すれば、キレが出て味にメリハリをつけやすいが、純米酒は米と水だけが原料で化粧ができない酒。その緊張感が、蔵に連帯感と上昇志向を生んだ。

手仕事を中心とした酒造り

原料処理は10㎏ずつの手洗いで限定吸水と手仕事を重視

「蔵見学のお客様によく雰囲気がいいと言われるんですよ」と話すのは、製造マネージャーの飯塚泰一さん。 造りのモットーは「和醸良酒」だが、お互いに適度な緊張感を持つことは、良い仕事を成し遂げるために必要な要素でもある。
そして、「手の届く造り」が昔からの伝統。効率よりも、造り手の感覚を大切にする手仕事主体の酒造りだという。
今も、洗米は10㎏ずつの手洗いで限定吸水、蒸米は米を少量ずつ張り重ねる抜掛け法。製麹には10㎏盛りの麹箱を使い、すべて人の手で調節できる手法が取られているそうだ。
必然的に造り手の連携は密になり、和やかな雰囲気になると現場を語った。

『酒造技術選手権』にて念願の首位に

製造マネージャー(杜氏)の役職にある飯塚泰一さん

この飯塚さん、若手ながら杜氏としての手腕は広く認められている。 そのきっかけは2015年。いくつもの賞を総なめにした。
まずは4月、『越後流酒造技術選手権大会』にて、当時35歳の飯塚さんは並みいるベテランを抑え堂々の首位に。これは県内酒造場が自醸酒を持ち寄り、酒質を競う恒例の大会。雪椿酒造にとっては初の栄冠となった。
続く5月の『全国新酒鑑評会』で金賞、10月には『関東信越国税局酒類鑑評会』で吟醸部門、純米部門ダブルで優秀賞に輝いた。しかも2年連続の受賞。飯塚杜氏への注目度が俄然、高まった。
純米蔵のスタートとともに杜氏の任に就いた飯塚さんだが、淡麗辛口市場の新潟にあって、個性の出やすい純米酒を造ることは大きな課題であったに違いない。
「目指したのは淡麗旨口です。スッキリした中に純米の旨みと甘みがバランス良くある酒。いわば本醸造と純米大吟醸を融合させたような酒です」と狙いを語る。
製造部は9人体制で年齢層は30代から50代後半まで。三季醸造で増石ニーズに対応し、現在1500石を醸している。

雪椿酵母仕込みの純米吟醸が誕生

かつては雁木、現在はアーケードが続く商店街にある。裏山にはユキツバキも群生

蔵の裏手に広がる加茂山公園のユキツバキ。この花の酵母で、社名にも酒銘にもふさわしい酒が造れないものか。先代杜氏の2005年、ユキツバキを杜氏の母校である東京農業大学に送り、清酒醸造に適した酵母を探してもらった。
全国の大半の酒蔵は日本醸造協会の『きょうかい酵母』を使っているが、独自性を求めて蔵付き酵母や、自然界から分離した酵母を使う仕込みもある。
東京農大の「花酵母」は有名だが、花から酵母を採取できる確立は偶然にも等しいといわれる。
実用化まで3年を要し、「雪椿酵母仕込」の酒が誕生した。
業界関係者からの評価は「いい意味で日本酒らしくない酒」。発酵力が強く野性味のある雪椿酵母からは、酸味がしっかりしたキレのいいお酒ができるようだ。
以下は蔵自慢の代表的商品。

取材/伝農浩子・文/八田信江