厳しい自然を力にする『玉風味』 誰にも真似できない世界のオンリーワンを目指す日本酒
玉川酒造

玉川酒造TAMAGAWA shuzo

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PICK UP 2024

お酒は人にしか味わえない。
だから人の心を豊かにするお酒を造りたい。

伝統は創るものと語る風間勇人社長

1673年、江戸幕府4代・将軍徳川家綱の時代から酒造りをしている老舗酒蔵『玉川酒造』。初代・目黒五郎助から19代目を数える長い歴史がある。

自然の猛威から生まれた新ジャンル

蔵を構える新潟県魚沼地方は日本有数の豪雪地帯である。 例年でも蔵の周りには雪が4~5mは積もる。その年は雪かきしても追いつかず、瓶詰めした酒が雪に埋もれてしまった。

「完全に埋まって手が出ない。仕方なくひと冬越した。春先に掘り起こし飲んでみると驚くほど熟成されており、社長以下社員全員が本当に驚いたと聞いています。『この味はこの地域でしかできない素晴らしい財産だ!』と、翌年から雪による熟成研究を始めました」

と語る、風間勇人社長。現存している雪中貯蔵の一番古い酒は1985年のもの。偶然が成したこの地域ならではの味が、蔵の主力商品のひとつになった。

最新機器よりも雪の力

魚沼地区でも、最も奥にある

「今は冷却装置付きタンクなど優れた機器もあります。それでも雪中貯蔵にはかなわない部分があります」と、風間さんは胸を張る。

タンクの動力は電気。振動もあるしムラも出る。酒も色がつき、香りも変化する。しかし雪の中だと酒はまるで冬眠した状態になるそうだ。

「酒は仕込んだ時の無色透明のまま。香りも新酒のまま。それでいて風味が丸くなる。最近、古酒が注目されていますが、それとは明らかに異なる新酒の熟成。新しいジャンルの古酒です」

新潟には豪雪を利用し雪中貯蔵を行う酒蔵は幾つかある。各々でやり方、考え方は異なるが皆、雪が酒にもたらす可能性に敬服の念を抱いている。

まるでSF?「冬眠」がもたらす土地ならではの酒

すっぽりと雪に覆われる厳冬期の蔵

ここでは万年雪を使って「ゆきくら」と呼ぶ雪中貯蔵庫を建造した。

「弊社は瓶貯蔵です。お酒が空気に触れる面積が少なく1本の容量が少ない分、隅々まで熟成します。雪の中の温度は約2度で湿度は90%ぐらいです。また電気の振動は全くありません。
まるでお酒が雪山で冬眠をするかのように熟成します。歳は取っているけど若いまま。SF映画でよく見るコールドスリープというあの発想と同じです」

物流や技術の発達により季節や気候を問わず同じ酒を造ることも可能な時代だが、玉川酒造は1年1年に勝負をかける。それは顔が見える、蔵の景色が見える酒であるということ。

「新潟代表となる蔵、日本代表の酒蔵というのではなく、世界でオンリーワンというポジションを目指しています」と熱気があふれる。

奇をてらうだけではダメ

敷地内の湧き水は、酒蔵の前で飲んでみることもできる
個性際立つラインナップが玉川酒造らしさ

風間さんが語るのは、日本酒の個性と未来だ。

「弊社は『100人に1人、好きだという人がいたら造ってもいいじゃない』というスタンスです。度数46度で凍らない酒と注目された『越後武士』は、発売当初はとんでもない酒だといわれていました。

梅酒も今日では当たり前となりましたが、日本酒の蔵元が手掛けるのは、10数年前はかなり異端視されていました。それでも 『清酒の可能性を広げるための挑戦だ』と考え造りはじめたのです。

そういった新しい商品を開発する上で重要な信念があります。それは奇をてらうだけではダメで、100年先でも飲まれている商品を造らなければいけない、ということです。

弊社は変わった商品も多いですが、商品を終売にもなかなかしないです。どれもこだわって自信をもって造ったもの。流行りに便乗するのは伝統ある企業がやることじゃない。伝統とは創るもの。創ることによって続くものです」

今季も雪に囲まれた白き世界の中、玉川酒造は100年先の酒、米の可能性を求めて造り続けている。

蔵元が薦めるお酒を紹介しよう

取材・文 / 金関亜紀