食米作りをやめて酒米『一本〆』を自社栽培 優しい食中酒は地元の名物も引き立てる味
恩田酒造

恩田酒造ONDA shuzo

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PICK UP 2024

来年2025年で創業150年になります。150周年に向けて今年も酒米「一本〆」を育てています。

恩田酒造株式会社・代表取締役社長・恩田紀男さん

長岡市にある恩田酒造が使う主な酒米は、自家栽培の一本〆と、契約栽培の五百万石。とくに全量自家栽培している一本〆への、恩田紀男社長の愛着は強い。

今は全て酒米の田んぼに

肥料などを抑えつつ、丹精込めて育てた一本〆

酒米というと背が高く倒れやすいため作りにくい、というイメージがある。その点、背があまり高くならないので作りやすい酒米の一つが一本〆だ。
「一本〆は五百万石を母に、豊盃を父に持ち平成6年に新潟県で開発された品種で、寒さに強く稲の背が高く無い為倒れにくく、淡麗辛口な味わいとは少し異なり、米の旨みを感じる酒になりやすいのが特徴です。
旨味があり少し甘めの酒を造り続ける恩田酒造は一本〆を自分達で育ててみようと挑戦を始めました」
そう語るのが、恩田酒造社長の恩田紀男さん。一本〆をこよなく愛する一人だ。純米酒、吟醸酒は、ほぼ一本〆で醸している。
「この20~30年前から田んぼ全部が酒米になっちゃって、今は、食べる米は買っているんですよ。うちでは、肥料や除草剤の使用量は極力少なくしています。比較すると収穫量はどうしても多少、減ってしまいますけどね」
と笑って話す。味わいはワインで言えばフルボディタイプのような、コクと旨味の強い、味の濃いお酒となる。そこが魅力だという。

農大で学び蔵元杜氏に

明治8(1875)年の創業。恩田紀男社長で五代目となる

精米も全量近い量を自社精米で行っていて、原料の米作りから酒まで、ほぼ社内で完結。六次産業化されている。
蔵元ながら、酒の設計もしていたという父の影響と、祖父からの指示により、東京農大の醸造科に進んだ恩田さん。
4年生になると、当時、東京都北区滝野川にあった頃の醸造試験場で米や米麹の研究を手伝い1年を過ごし、卒業後は、食品分析などをおこなう会社に勤務していた。
蔵に戻ると、当たり前のように蔵にいた越後杜氏の元で、酒造りをスタートし、杜氏の引退後は、今でこそ多くなった蔵元杜氏に。
「でも、学ぶことと実際に造ることでは、全くと言っていいほど違いますからね」
現在は10月~4月頃にかけて行っている酒造りだが、いずれは三季醸造も考えている。そのスタート時期は未定だが、そう遠くない時期になるに違いない。

磨かない米の酒

できるだけ磨いた米で造る酒が当たり前のようになっている中で、ある飲食店が「米の旨味をしっかり感じる酒があると嬉しい」という。
話を聞いてみると、その店ではお酒と共に出す料理として、刺身や焼き魚、湯豆腐など、さっぱりしたものだけではなく、味のしっかりした和洋中の料理も提供する時があるという。例えば、魚の煮つけやハンバーグ、唐揚げ、グラタン、チンジャオロース、などジャンルを問わない。しかし、そうなると、日本酒から焼酎やワインにお酒が代わってしまうのだ。
「日本酒でそう言った料理に合うお酒があっても良いと思う。つまり、そのようなお酒が造れないか?と、聞かれたわけです。そこで挑戦してみることになったんです。
通常、米を磨かないで酒を造ると、米の外側にある成分が「雑味」となり淡麗辛口な味わいを目指すときに邪魔な存在になる為、たくさんお米を磨きます。あえてその「雑味」を取り込むことで複雑で濃厚な味に仕上げ、なおかつ、米の旨味が出やすい一本〆を使い、味のしっかりした料理に合うお酒を造りました」

「鴨がネギ背負って……」を「鶴と油揚げ」に?

小瓶には、ポスターにない鶴も登場しているので、ぜひチェックを!

ある時、取引先の酒販店から「栃尾の油揚げ」に合う酒を造ってほしいと依頼があり取り組むことになったという恩田酒造。地元長岡のつまみの定番「栃尾の油揚げ」に合うお酒を造るのは簡単かと思いきや、完成までに一年半近く掛かってしまったという力作だ。
「薬味を乗せて食べるさっぱりタイプとネギや納豆、キムチを挟んで食べるしっかりタイプの栃尾の油揚げ、この両方に合う味わいの酒を一本で現わすのに時間が掛かって……」と恩田社長。
そして、この、なんとも言えず愛らしい鶴たちについても、
「このラベルを描いたのはお話をいただいた酒販店の常連さん。会社勤めをしながら、休日は街歩きのガイドをするなど、絵も上手でその酒販店のシャッターに描くほど。この女性が描くイラストがかわいらしく思わず手に取る方が多いそうです」と話す。

蔵元が自信を持って勧める日本酒を、いくつか紹介しよう。

取材・文 / 伝農浩子