創業200周年の節目を越え、「ドメーヌ髙橋」をはじめとする地産製造の取り組みを進めています。
酒銘の「金升」は、蔵元の屋号。「長さは尺金で測り、嵩(かさ)は升で量るように、正確で正直なモノづくりや商売をする」との意思を示している。
尺金と升の紋印が大きく描かれたラベルは、蔵を象徴するシンボルとなっている。
酒単体では決して主張せず、料理をそっと引き立てる名脇役に徹する。味わいに派手さはなくとも、膨らみのある旨みと小気味よいキレ、甘みを帯びた余韻こそが「金升」の真骨頂だ。
代表取締役社長の髙橋綱男さんは「地元で採れた米と飯豊山系の伏流水を使い、この蔵の環境に逆らうことなく金升らしい酒を当たり前に醸す。それが、金升酒造の酒造り」だと言い切る。
髙橋社長の弟で杜氏を務める巌氏が中心となって醸すのは、日々の食に寄り添って飽きることなく呑み続けられる、飲み手にとってかけがえのない定番酒である。
新発田市中々山地区は、中山間地ならではの良質な米どころ。この自然豊かな新発田の風土を一人でも多くの飲み手に感じてもらいたいと、蔵元では2016年に農業法人を設立し「越淡麗」の栽培をスタートさせた。
目指すは、全量自社栽培米で臨む酒造り。蔵人たちは夏は田んぼ、冬は酒蔵で汗を流し、良酒を醸す。
2021年には1枚の自社田を選び出し、その米のみを使って仕込む酒、「ドメーヌ髙橋」をリリース。
新発田市出身のワインソムリエが、フランス、ブルゴーニュ地方の小規模ワイナリーの自社栽培自社醸造に着想を得てプロデュースした。豊かな風土を味わいを封じ込めた無濾過生原酒だ。
金升酒造を訪れると、1930年に建てられた蔵が奥行きをなし、かつて新発田藩主の御菜園だった中庭では木々が四季折々の表情を見せていた。
髙橋社長は「そんな蔵のレトロな風情をゆっくりと味わってもらえたら」と、毎年6月に「金升 蔵まつり」を開催している。「金升 蔵まつり」は、杜氏の酒蔵案内や当日限定の特別酒の販売に加え、地元の工芸雑貨や農産品の出店や日本庭園の開放など、酒蔵で過ごす時間を楽しんでもらう趣向だ。この他にも、写真展等、イベントを催したり、さまざまな“コト”の提案を行っている。酒蔵を舞台に広がる交流の場に蔵元が馳せる想いは、ただひとつ。
日本酒文化に触れてもらいたいという願いだ。
髙橋社長:現在地に蔵を移転したのは、1930年。三代目蔵元の髙橋耘平(うんぺい)が、水が良く、良質な米が育まれる地を求めてのことでした。
私たちはこの恵まれた環境を活かし、真摯に酒造りに取り組むのはもちろんのこと、歴史ある蔵の佇まいの魅力を知っていただくべく、さまざまな取り組みを通して足を運んでいただける蔵を目指して参ります。
蔵元が自信を持って勧める日本酒を、いくつか紹介しよう。
醸造アルコールではなく、米焼酎を添加する「柱焼酎仕込み」で仕上げた一本。「柱焼酎」とは江戸時代初期の醸造技術書「童蒙酒造記」に記されている製法で、金升酒造では米焼酎から手掛ける。
しかも、原料の米は自社栽培米100%というこだわりよう。しっかりとした味わいで、旬の料理にもぴったり寄り添ってくれるのが嬉しい。
金升ブランドの中でも日々の晩酌酒として多くのファンを持つ。ボディがしっかりとしていてキレがあり、冷やから燗まで幅広い温度帯で楽しめる。中でも蔵元が勧めるのが、とび切り燗(約55℃)。
深い旨みと力強いキレとのバランスは秀逸だ。
蔵のある新発田市に流れる加治川沿いの桜並木にちなみ名付けられた「初花」。精米歩合55%まで磨いた地元産の「越淡麗」を使って丹念に醸した。
あえて個性を主張しすぎず、あくまでも家庭料理に合わせて味わいたい定番の食中酒は、絶妙な香味のバランスが身上。冷やもいいが、人肌燗で味わうことで、おだやかな香りとなめらかな喉越しが堪能できる。
取材・文 / 市田真紀