消費者や時代に柔軟に対応 日本酒ファンを増やした『上善如水』の開発秘話とは
白瀧酒造

白瀧酒造SHIRATAKI shuzo

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PICK UP 2018

仕込み水は蔵の敷地から地下水を汲み上げて使用しています。地下数十メートルから汲み上げられた水は超軟水。飲んだ人が「こんなに旨い酒を飲んだことがない!」と感激するお酒をリーズナブルな価格で、一杯杯飲んだら美味しくて、ついニ杯目も飲みたくなるようなお酒を造り出していきます。

越後湯沢は、新潟県有数の温泉街であり、川端康成の小説『雪国』の舞台ともなった地であり、冬には多くのスキー客で賑わう観光の街。
この地に1855年、湊屋藤助が豪雪地域ならではの豊富な湧水を使って酒造りを思いついた。これが、白瀧酒造の始まりである。

日本酒入門になるピュアな味わい

三国街道を行き交う旅人の疲れを癒す1杯からはじまった蔵の歴史

「水は酒にとって一番大事なもの。この地域は昔から周りの山々からの雪解け水が注ぎこむ谷地であり、湧水が豊富だった。
近くの三国街道を往来する旅人は必ずこの地で喉を潤していたそうですよ。昭和の頃は蔵の前にも池があり、目の前の道路は1mほど掘れば水が湧き出してきた。とにかく名水地でした」
というのは7代目蔵元、高橋晋太郎さん。
水の如く澄んだ誰もが親しみやすい日本酒を数々生み出していくこととなる。

若いスキー客をターゲットに

湯沢のゲレンデを訪れる国内外の客は30万人を突破。『上善如水』はゲレンデ客をターゲットに生まれた

かつて淡麗辛口が人気だった時代、すっきりと飲みやすい口当たりの『上善如水』を発売し、日本酒を知らなかった若者の心を鷲掴みにした。
「1990年発売の『上善如水』は、湯沢にスキーを楽しみにやってくる若者をピンポイントにターゲットにしました。当時は白ワイン人気が凄く、ワインが飲めるなら同じ醸造酒の日本酒も飲めるはずだと思って、白ワインのようなフルーティな香りですっきりタイプを造りました。
日本酒=親父くさいという印象も、日本酒離れの原因のひとつだと思ったので、ラベルや瓶も一新。するとそれまで日本酒を敬遠していた若い人が、『面白い!』『飲みやすい』と手に取ってくれるようになりました」

日本酒業界の異端児だった

おもしろいという声が未来への答え。たとえそれがひとりでも。

一方、当時の日本酒業界や日本酒好きからは「何をやっているんだ?」と言われたことも多々あったそうだ。
「軽やかさ、飲み口の良さは今日では常識ですが当時は先取り過ぎたようですね(笑)。まずそんな味わいを造る蔵もほとんどなかったし、『売れるはずがない!』と言われていました。うちは日本酒の異端児だったのでしょう。
しかし、お客様のニーズに合っていたので売れた。そこに他蔵よりもうちが先に気づいたというわけです。昔ながら伝統にとらわれたり、前例がないと二の足を踏んでいたりしたら、見過ごしていたかもしれませんね。売れるヒントは、目の前の消費者が持っていたのです」

全員で意見を出しあう、月1回の企画ミーティング

各銘柄のサイズに対応できる瓶詰め機器

市場において新たなるスタンダードとなった『上善如水』。日本酒初心者のための入門酒となり28年。常に若者の好みや趣向を研究し、マーケットを開拓し続けてきたそうだ。
「既存商品で満足するだけではダメ。常に次なる一手を模索すること。そのひとつが月に1回の企画ミーティングです」
ミーティングに参加するのは高橋社長をはじめ、杜氏にボトリング担当、デザイナーに営業、研究職など各セクションの精鋭たち。
若手からベテランまで揃い、各々が感じる思いを役職や年齢関係なく積極的に意見を出し合う。
「会議で”沈黙”はない。会議は各々の考えているものを持ち寄る場。みんな勉強熱心で、意見が出ないということはありません」という高橋社長。
「製造部は造りの現場にいるものの、『世の中でどういった商品が市場にウケているのか』という情報が、どうしても手薄になってしまう。だから、市場の生きた情報を教えてくれる営業部と話し合える企画会議は、すごくありがたい機会です」という松本宣機杜氏。

常に前進する気持ちで

時代の若者の味覚や感覚にあった味を造りだしていくのが『上善如水』。

『上善如水』も、じつは発売年から毎年タイプが変わっている。純米吟醸ではじめ、香りがより感じられるようにアル添の吟醸に変わり、2009年に純米吟醸に戻った。
各時代のお客様の嗜好に対応していたらそうなったという高橋社長。つまり年代によってタイプが異なる。 最近の炭酸人気も即反応し、生まれた『上善如水スパークリング』はさらに新しいファン層が増えた。
これからも『上善如水』は、その時代の若い人たちが最初に飲む「入門酒的な存在でありたい」という気持ちは、社長を始め、社員一同、心に常に持っている。

水のような存在になりたい

代表取締役社長・高橋晋太郎さん

高橋社長:最近は、食中酒で楽しんでいただきたく軽いテイストかつうま味も増やしました。まだまだ変化する。これが『上善如水』です。
多くの人に気軽に飲んでもらえるような形を色々提案するためにも、私たちは水のような柔軟さを持ち、水のように自由に形を変えながらも本質を変えず、謙虚な気持ちで携わりたい。水は万物に恵みを与える存在。そんな水のような存在になりたいですね。
いつも心に水を感じていること。 まさにこれこそ上善水の如し。若者に支持される商品を生みだす秘密はその心意気にあるのだろう。
蔵元が進めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 金関亜紀