ビジネスモデルを作る意気込みで挑戦を続ける『苗場山』 酒蔵が町の活性化にも
苗場酒造

苗場酒造NAEBA shuzo

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PICK UP 2018

これからは海外も視野に入れて商品開発や、営業展開も考えていきたいと思っています。本格的な輸出には、良いパートナーも必要ですから、焦らずに、少量対応から始めていくことも考えています。

総務部長の福嶋香志枝さん(左)と、取締役の大塚勇栄さん

「苗場」と聞くと、にぎやかな苗場国際スキー場が思い浮かぶ人も多いだろう。しかし津南町は、苗場スキー場の裏側にあたる山裾に広がる。爽やかで穏やかな空気が流れる、苗場酒造のある街だ。

苗場山からの恵み、清らかな伏流水

蔵を守ってくれるしめ縄は、毎年、地元の方たちが提供してくれる。

すっきりとして柔らかい甘さがあり、女性に人気の高い『苗場山』。男性からは米の旨みがしっかり感じられると評され、好まれているという。鑑評会などでの入賞率も高い酒蔵だ。
飲み口の良さにつながる要素のひとつは、柔らかな仕込み水。標高2,145mの苗場山の伏流水だ。この軟水と地元津南町産を始めとする県産の酒米「五百万石」を主に使用して『苗場山』を醸している。
和窯に甑、蒸米はスコップで手掘りして放冷機へ。全て手造りで行うため、総量に比して蔵人の数が多いようだ。 対応してくれた事務課の福嶋香志枝さんが話す。
「現在は特定名称酒が8割を超えていることもあり、必然的に丁寧な造りとなります。そして、お酒には、自然豊かな津南町の風土や、和をもって醸す蔵人たちの想い、110余年の蔵の歴史……、そういった全てが込められています」
そうして生まれる酒は、雄大な山にも似た、懐深い味わいだ。

町の中心にある酒蔵・社屋を改修

広々とした駐車場の奥にあり、威圧感のないこの店構えで思わず立ち寄りたくなる

苗場酒造は1907年の創業。メインブランド『苗場山』は、創業時からの『不二政宗』に代わるものとして20年ほど前に開発された。地元だけに向けていた目線を上げ、全国展開への決心の意気込みが感じられるネーミングだ。
2014年には、社名も滝澤酒造から苗場酒造へと改め、100周年を期に社屋の改修を行った。数棟の酒蔵と事務所をひとつに集約。蔵の動線が良くなり、一部は一般客も見学できるようにした。
ショップを併設し、事務所はその傍にオープンな形で設置。蔵見学は、冬場や団体は要相談だがオフシーズンなら随時可能だ。
「試飲もできますので、ぜひお試しいただきたいですね。ショップや蔵見学など、お客様と直接お会いする機会が増えたことで、私たち事務の者ももっとこのお酒を知ってほしいという意識になりました」
と、福嶋さん。

風情ある店構えは町の活性化にも

店前には椅子も置かれ、細かな心遣い

「さすがにスキー客はこちら側までは来ませんが、登山の方は寄ってくださいますね」と、嬉しそうな福嶋さん。苗場山から下りてくると、町の中心部に酒蔵が立っている。湯沢駅へのバス発着場も近いという好立地だ。
「自分の登ってきた山の名前のお酒ですから、良い思い出になるようですよ。山小屋の方も、そのように薦めてくださっていると聞きました。ありがたいことです」
登山を楽しんだ人たちが自宅に戻り、登ってきた山の名を冠したお酒を傾けながら、無事に帰った安心感と思い出を肴にゆったりした時間を過ごす。幸せなひと時に違いない。

地元の書家による新ロゴも

時間が許せば、仕込み蔵や貯蔵庫なども見学できる

社屋の建て替えと同時に、『苗場山』のロゴも一新。制作を十日町出身の書芸家・平野壮弦さんに依頼したところ、「普通に真面目に向かって、お酒を飲みながら、墨にお酒を含ませて……」など、さまざまなシチュエーションで書き上げたロゴは36種類もあったという。
悩みに悩んで1点に決めたが、どれも素晴らしいものばかり。店内や事務所には選に漏れたロゴも飾られ、ミニギャラリーさながらとなっている。

酒の名を広め、町を盛り立てる

書家の見事なロゴが鑑賞できる店内

2014年、津南町旅館組合からタイアップの相談を受けた。度重なる地震などの災害もあり、集客回復の手段として、宿泊者の特典になるようなお酒を作りたい、という。

旅館組合の担当者たちは、ボトルや酒質、ラベルのロゴの選定はもちろん、酒米作りから仕込み体験まで関わって一緒に造り上げた。

ただひとつ、こだわりのボトルがそれなりに高価で、そこへ純米大吟醸を詰めるため、価格の設定が懸案事項となったが、社長からの後押しもあり、儲け度外視で取り組んだ。

これが功を奏し、飲食店などからも続けて話が持ち込まれたという。 直販に関しても、多くの酒蔵が利用を躊躇している大手通販サイトを積極的に活用している。

「苗場山」という名ゆえの苦労も

著名な「苗場」を冠したゆえの苦労もあるという。

福嶋さん:タイアップはこれからも積極的に進めていきたい分野です。何か新しいスタイルを確立して、ビジネスモデルになれれば。 通販のお客様は検索で選ぶことが多いので、名前を覚えていただくことが先決。ところが『苗場山』は、「酒」と入れないと、まず山、スキー場……。今後の課題ですね。 でも、積極的にトライは続けていきます。蔵人が心を込めて醸したお酒をたくさんの方に飲んでいただきたいですから。また、こういった経験が同業の方たちにも参考になれば、とも思いますね。

蔵元が勧めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 伝農浩子