自然災害を乗り越え小千谷らしさにこだわる 『越の寒中梅』蔵元は意外なルーツが
新潟銘醸

新潟銘醸NIIGATA meijo

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PICK UP 2018

これからはお酒をいかに地域的な文化と結びつけていくか、が課題です。老若男女みんなに「新潟って面白い」と言ってもらえる。そのきっかけになるようなお酒を醸していきます。

地震王国・日本には活断層も多く、活火山の数も世界トップクラス。2004年、新潟県を大きな地震が襲ったことも記憶に新しい。新潟中越地震である。
M6.8、震源の深さ13㎞の直下型地震は、多くの被害をもたらした。新潟銘醸のある小千谷も被害が大きかった地域のひとつだ。

自然災害で限界を見たゆえに

自然の災害にも耐えた底力に「酒は造り続けられる」と誰もが確信しました(山下取締役顧問)

目を閉じて当時の様子を語るのは、山下進取締役顧問。誰もが己の無力さを痛感したという。
「あの地震は夕方近くに起こったので、被害状況がすぐにわからず、一夜明けてようやくその酷さを知りました。地面はうねり、家々の屋根が落ち、壁や塀は崩れていた。我が社も地震の猛威には抗えなかった。一番古い木造蔵が無残な姿に。
瓶詰め製品は大量に割れ、タンクは転がったり傾いたり、穴が開いたり。しっかり固定していた野外のタンクはボルトが引きちぎられていました。それでも人災なく、各ラインもどうにか稼働できた。精米所の被害がほぼなかったことは、まさに奇跡です」
割れた空瓶を全員で片付け、無傷だったタンクから瓶詰め。「とにかくできることをやるしかない」という強い思いが、蔵全体に広がった。
「あの時、地獄を見たから、どんな苦しいことがあっても乗り越えられる。ある意味、社員全員の度量が広がったかもしれません」と山下さんは語る。

意外なルーツで始まった酒造り

まるでわらしべ長者のように…酒造りへの道が次から次へと繋がった

新潟銘醸の歴史は、そう古くない。
「新潟銘醸の創業年度は1938年、酒類販売業の免許制度が始まった年です。元々、うちは酒屋ではなく、明治時代から小千谷に隣接する長岡市で薬酒を造っていました。『機那サフラン酒』 はご存知ですか?」
機那サフラン酒とはサフラン、蜂蜜をはじめ桂皮、丁子、甘草など十種類ほどの厳選した植物などで造ったリキュール。薬酒というと養命酒が有名だが、その昔は二大勢力だった。

サフラン酒の次につくったのは…

造り出した酒にとって貯蔵タンクは最高のゆりかごである。だからこそ最新設備で最高の環境を整える。

「もともと機那サフラン酒は、初代吉澤仁太郎が吉澤家伝法の秘蔵酒を竹筒に入れ、長岡市で販売したのが始まりです。1894年に現在の長岡市摂田屋に拠点を移し、『機那サフラン酒製造本舗』と命名し商いをしていたのです。昭和初期には海外にまで販路を広げ、そこで吉澤家は財を成して大地主となりました。
で、次は酒造業への進出と思うでしょう。ところがそうではなく、ホーロータンクを製造する会社を新潟県内の大手酒蔵などと共同で始めたのです」
戦前、戦後にかけて日本酒業界には一大革命が起こる。木桶オンリーだった蔵にホーロータンクが参入してきたのだ。
木桶に比べ微生物の働きをコントロールしやすいこと、管理・保管が容易であることなどが理由で、またたく間にホーロータンクの需要は右肩上がり。
「とにかく未来を見極める能力に長けていた先人たちでしたね。またそこで財を成した。元々地主なので、米はある(原料)、ホーロータンクなどの道具もある(設備)、そして金もある。この3つが揃えば、自ずと『酒が造れる!』という流れになったようですよ」

流されない先見の明

オートメーション化した造りであっても基本はず手造りの世界をきちんと学ぶことである。

酒蔵を買い取り1938年、新潟銘醸としての歴史が始まった。今の地に移ったのはその2年後。『長者盛』は創業当時からの銘柄である。
「縁起のいい名ですよね。新潟銘醸が生まれるまでの過程にどこか似ている。一つ一つの出来事が酒屋になるために必要だったこと。わらしべ長者というか、日本昔話に出てくる豪農の屋敷とそこに広がる水田が思い浮かぶと言う人もいますよ」
気づけば日本酒人気で一万石を超えるメーカーになった新潟銘醸。普通ならイケイケゴーゴーというパターンが多いが、そこは先見の明がある蔵である。
「世の中、同じ味だと絶対飽きる」と考え、個性を持つ地酒に力を注ぎ始める。さらに、飲み手が喜ぶ酒には製造技術の安定が必要だと、技術の標準化とマニュアル化を推進。
設計・製造から検査までの一連工程での管理能力を「品質システム」と捉えることで、社員全てが新潟銘醸の酒造りをきちんと把握でき、それが新潟銘醸の資産にもなると考えたそうだ。

原料にこだわり絶妙なバランスを実現

味のある酒、顔が見える酒。それが地酒であり、本来の新潟らしい酒。

「うちの酒の伝統は味のあるタイプです。膨らみがあり飲み応えを感じる旨味のある酒。そのためには原料にこだわります。いい酒米をよく磨く。そしてその味を損なわないように低温でゆっくり発酵させる。酒にストレスをかけないことです。
もちろん、新潟の酒ですから軽さも大事。重いのは飲み続けられないし美味しさも続かない。この絶妙なバランスが鍵。うちの杜氏は越後小千谷杜氏の流れをくみ、この土地らしさを一番出せる技術を持っています。
彼を基軸に小千谷らしい、新潟銘醸らしい味わいをこれからもしっかりと醸すだけです。流行や人気の酒質に変わることはこれからもありません」
そんな蔵元が勧めるお酒を紹介しよう。

取材・文 / 金関亜紀