酒が苦手で口数少ない蔵元が佐渡最小の蔵で造る「素顔の美酒」 酒好きが勧める『真稜』
逸見酒造

逸見酒造HENMI shuzo

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PICK UP 2018

これからは熟成酒造りに挑戦したいと思っています。熟成を想定した仕込みにも取り組みました。一朝一夕にできあがるものではありませんが、着々と構想は進んでいます。ご期待ください。

5代目蔵元の逸見明正さん

かつて佐渡には200を超える酒蔵があった。現在、島内で日本酒を造っているのはわずか5蔵。その中で一番小さい酒蔵が、明治5年創業の逸見酒造である。

酒が得意でない蔵元だからこそのこだわり

「じつは、私も父もあまりお酒は得意じゃないのです」と笑うのは5代目の逸見明正さん。こちらの酒といえば、コクと旨味がしっかりとあり、酒好きが必ず惚れ込むタイプだ。
ブームが起こる前から純米酒に力を注いできた蔵でもある。その造り手なのに酒が苦手だったとは……。
「飲めないから、酒の味にしっかりこだわることができたのだと思います。父は生まれた酒の世界を大事にと心がけていました。たとえば“素顔の美酒”をモットーに、当時飲みやすくするために使われていた活性炭をなるべく使わないようにしました。
“素顔の美酒”とは、絞られたままの酒をよしとし、その後は手を加えないというもの。新潟の酒といえば、炭で濾過した綺麗な酒だった当時においては、かなりのチャレンジャーですよね」

仕込水の性質を生かし山廃造りに取り組む

4代目は、新潟では珍しい山廃造りもしっかり取り込んでいた。酒造りに必要不可欠な水は敷地内の井戸水。適度にミネラルを含む中硬水を使うことでどっしりとした味わいの酒になる。
その特徴をうまく活かせる造りのひとつに山廃があったのだ。
「蔵人が10人もいない酒蔵。時間も人手も足りないのが現実。でも手間暇かかる分、独特の酸味とコクを生みだす山廃は父の目指した味のひとつだったのでしょう」
逸見酒造の山廃。冷もいいが、やはり燗に定評がある。その旨さに虜になる酒呑みも少なくない。

熟成酒づくりにも挑戦

「これからは熟成酒造りにもチャレンジしたいですね」。多様化している日本酒。昔と同じことをするだけでは発展性がないと気づき、自分らしい酒を造りたい、と逸見さんがたどり着いたのは熟成酒だそう。
イベントで「熟成酒はないの?」という質問が多く、自分の酒を熟成酒にするならどういうのがいいのかと考え始めたそうだ。
「うちで使う酒米は、山田錦が2割。越淡麗と五百万石が6割。加工用米が2割。越淡麗の割合は年々増えており、県酒造組合からも『越淡麗を使おう』という声も多い。やはり新潟県産酒米である越淡麗が、これからの『ザ・新潟酒の礎』になってほしい。
そのためにも、越淡麗の可能性をもっともっと試すべきだと思う。熟成酒は一朝一夕で完成するものではない。長い年月をかけて造りあげるもの。うちのような家内工業的な蔵では大量仕込みもできない。だから1年に少しずつ、用意した酒米に余剰がでた時に少しずつ仕込みます」

世界の人に喜ばれる熟成酒を

昨年の造りで熟成酒用の酒を少し仕込んだ。熟成酒は時間との共存酒。ゆっくりと時間をかけ、しっかりと熟成させるために、低温熟成のできる場所で瓶貯蔵、そしてタンク貯蔵という、2つの方法で寝かせる予定だ。
「どちらがうちの熟成酒となるか。日本だけでなく、世界の人にも旨いと喜んでもらえる佐渡の熟成酒を未来に残したい」
日本酒の熟成酒は、ワインやウイスキーなどビンテージが当たり前とされる世界から今、注目を浴びている分野。世界に誇れる日本酒の熟成酒がまたひとつ、ここから始まっている。
蔵元がお勧めする酒を紹介しよう。

取材・文 / 金関亜紀