「センサーは蔵元自らの手」 小さい蔵には効率のいい昔ながらの製法で造る『越後美人』
上越酒造

上越酒造JOUETSU shuzo

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PICK UP 2018

「にいがた 酒の陣」では、毎年、素直で貴重なご感想をいただけるので、参考にさせてもらったり、励まされたりしています。今年はどんな反応になるか楽しみです。ご来場をお待ちしています。

上越酒造株式会社 代表取締役社長・飯野美徳さん

お酒も美味しいが、まず誰もがその人柄に口を揃える「優しくて誠実で可愛いらしい蔵元さん」。上越酒造・飯野美徳社長は、柔らかな口調で話し始めた。

「優しい味、きれいな飲み口」を

何しろ銘柄は『越後美人』である。そして、温かいお人柄。きっとお酒も柔らかで飲み心地がいいだろうと、飲んだことのない人にも思わせる世界がある。自分ではどんなお酒だと説明するのか尋ねると、
「よく言われるのは、優しい味、きれいな飲み口だと。多分水質に由来するところが大きいですね。それと、私がそういう酒が好きなんでしょうね」
仕込み水は、敷地内の井戸から。柔らかな軟水ではあるが、それを抜きにしても、お酒の味と造り手は、似てくるものだ、とも感じられる。

一造り目から鑑評会で優秀賞に

和釜に甑、槽搾り・袋吊りといった伝統的な酒造り
揃って可愛らしい空気感を作り出している蔵元夫妻。心があったまる。

この限りなく控えめな蔵元さんが、杜氏になって最初の造りから大吟醸に取り組み、しかも優秀賞まで取ってしまったというから驚く。
平成5年、高齢だった杜氏が辞めることになり、「蔵元が杜氏を務めるのが一番確か」と周囲に説得された。杜氏の指導に加え、周囲の人たちや新潟県の試験場などに学んだり、相談したり、なんとか1年目の造りに漕ぎつけた。
ところが、年度半ばで先代が倒れ、手を離さざるを得なくなった。本格的な造りは翌年度から、さらに社長に就任もして、蔵元杜氏となったのだ。
「吟醸酒には、もちろん興味があったけれど、何年かして自信がついてから、と思っていた。ところが、試験場の先生が、最初から挑戦しろ、と」
要所は丁寧に教えてもらいながらではあったが、なにしろ、ほとんど一造り目と言っていい時。しかもサポートの蔵人には、ほぼ素人のご近所の方々も。
しかし、さすが新潟の指導体制は万全だ。諸先輩や先生の教え通り素直に造ったのがよかったのか、元々才能に恵まれていたのか。
初めて造った『越後美人 大吟醸』は、1995年の「第77回関東信越国税局酒類鑑評会」で優秀賞を受賞。「最初の受賞で、杜氏になり、酒蔵を続けていく自信がついた」という。
現在も精米歩合50%の純米酒を造っているが、純米大吟醸とは呼ばず、純米吟醸としている。先代杜氏の元で働いていた頃から疑問があり、そもそもなぜ純米吟醸は美味しいのか、と精米歩合の方向から考えてみた。
そして65%から試し、1年に1回精米歩合を5%ずつ減らしてみたところ、50%が美味しいと思われた。そこで止めているのだという。
「特定名称酒と普通酒が半々ですし、小さい蔵なので何本も吟醸酒を仕込むわけにいきませんから、時間をかけて試してみたんです。ここ10年ほどは50%。ここがいいかな、と思っています」

創業210余年の紆余曲折

創業は文化元年。1804年というから、210余年の歴史を持つ酒蔵だ。しかし第二次世界大戦中に廃業させられ、戦後、数社一体となれば復活することが許された際に、3社が集まってできた上越酒造。
銘柄を決める際、地元に入り込むのはもう難しく、首都圏に買い手を求めるしかない状況だったことから、東京の酒販店さんに出向いた先代が、帰路、電車に揺られながら思いついたという。新潟の地酒をアピールする名前、『越後美人』となった。
ところがそれから数年、他の2社が手を引くと言い出し、飯野さんが全てを引き受けることとなる。
「それなら、愛着のある自分の蔵の銘柄を復活させたい。『若竹』という名前だったんですが、これを、優秀賞を取った大吟醸につけたんです」

古式を大切に今様を探る、心込めた酒造り

ほとんどが槽搾りで

その歴史の重さを感じているのか、飯野さんがいつも心に留めているのは、「古式を大切に今様を探る、心込めた酒造り」をすること。
「素人同然だった自分が、思った酒を造れるようになったのは、心配してくれた先代杜氏の紹介で、本来は入れない杜氏組合に入れてもらったこと」
研修旅行や鑑評会などにも、隔てなく一緒に学ばせてもらったことが大きいという。飯野さんの人柄ゆえかもしれないが、厳しいばかりでなく、助けてあげようという気持ちを優先した、人に余裕のあった時代なのかもしれない。

小さな蔵だからできる、昔ながらの丁寧な酒造り

飯野社長:本当に小さな蔵ですから、ラベルも手書き、麹は普通酒でも限定給水、蒸米の温度を測るセンサーも使わない。手がセンサー、その方が早い。槽搾りか袋吊り、丁寧に造っていることも本当ですが、小さいからその方が効率もいいんです。
10人が10人美味しいというんじゃなくて、口に合う人がいて、その人が熱烈な大ファンになってくれれば嬉しいんです」
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取材・文 / 伝農浩子