発酵の町で個性ある手造りの吟醸酒を 「酒に心あり」 越の華酒造の挑戦
越の華酒蔵

越の華酒蔵KOSHINOHANA shuzo

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PICK UP 2018

特別なことはせず、これまで通り、いつも通り、ですが、この季節は無濾過の原酒を味わっていただきたいですね。

目指すは究極の吟醸酒

越の華酒造株式位会社 代表取締役社長・小野寺 聡さん

様々な添加物で量を増やした、いわゆる「三増酒(三倍増醸清酒)」が大手を振るっていた時代、小野寺社長が師と仰ぐ田中哲郎氏は、その逆を説いた。
関東甲信越国税局鑑定官から生涯を酒の指導にかけた田中氏が、昭和28(1953)年に立ち上げた研醸会。
厳しい指導で、現在に至る新潟酒の基礎を築いた氏と、そこに集った錚々たる、そして、後に次々と個性を伸ばし、名を挙げていった酒蔵の顔ぶれで知られる存在だ。
その会の事務局を務め、会合や勉強会の場を提供していたのが、越の華酒造だった。杜氏たちには技術向上に、蔵元にはこれからの新潟県産酒と経営者としての情報交換の場だったという。
新潟の酒蔵の、常にオープンな関係性は、この時から始まっていたのだ。師の教えは、究極の吟醸酒を求めて、一つの酒を突き詰め、同時に常に新しい酒を探求する同社のラインナップによく表れている。

馥郁たるほのかな香りと柔らかく切れの良い酒を

杉玉がなければ酒蔵とは気づかないような建物

同社のある沼垂(ぬったり)にはかつて58社もの発酵食品の会社があり、現在でも15社を数え、「沼垂醸す地区」とも呼ばれる。そこで切磋託した中で、常に念頭にあるのは、気軽に飲める、飲み飽きしない酒。
加えて、様々な食事のシーンに合わせた個性ある吟醸酒を楽しんでもらいたいと、兵庫県産山田錦、新潟県産五百万石、山形県産亀の尾、青森県産華吹雪、といった個性的で高品質な酒米を使用し、米の特徴を活かすことに腐心する。
その一つが、原料米を40%までしか磨かないこと。加えて、最も影響が大きいと言われる酵母に、自家培養の酵母を使うことで独自の味を生み出す。ほのかな香り、米の旨味が生きた味、キレのよいふくらみのある酒になる。

北海道から渡った父の言葉を社是に

自社で培養している自社酵母

明治3(1876)年創業。以来、明治、大正、昭和、と、各時代に建てられた建物は文化財級の酒蔵。着実に規模を広げていった様子が伺える。
しかし、小野寺社長は自らを2代目と呼ぶ。1951年、経営不振だった当時の酒蔵を再建するため、小樽から一人で新潟へやってきて見事に使命を果たした、尊敬する父・小野寺寛氏を初代とするからだ。
太平洋戦争の際、樺太に抑留されていた経験もあり、波乱万丈の人生を送った先代は、数多くの訓言を残したという。

一滴一滴に心をこめる

正統派から異端?までチャレンジ精神が止まらないラインナップ
錚々たる名が並ぶ「研醸会」参加蔵の旗。

小野寺社長は、新潟清酒学校の第2期生でもある。学校がスタートした一期の時から入校を希望し、貪欲なまでに学んで来た、と笑う。
そのことが今につながっているのか、次々と生み出されるユニークな酒には、海外の有名シェフも注目するほど。
表面に現れるのは奇抜さだが、最も大切にしているのは一番初めの原料処理であり、1滴1滴に心を込めること。基本を崩さず、前向きな姿勢、先を、世界を見据えた視野の広さは、今も変わらない。

手間がかかっても手造りを

小野寺社長:日本の伝統文化であり、歴史のある日本酒を伝えていきたい。社是としている「酒に心あり~滴滴在心」というのは、父が残してくれた言葉の一つなのですが、一滴一滴に心がこもっていないとお客様に届けられない、ということです。
それが伝統の日本酒。手間がかかっても手造りを続けていきます。銘柄も見ずに飲んでみて、「おいしいね」と興味を持ってもらえたら幸せですね。

蔵元が自信を持って勧める日本酒を、いくつか紹介しよう。

取材・文 / 伝農浩子